書きかけのブログ

詰将棋について書くことがあれば書きます

位置エネルギーは落ちてくる

間接打診中合の歴史をのんびり会とえび研で学んだので、ここにまとめる。 そのためにまず既に作者自ら解説している作品を、それでも解説するところから始めよう。

2013年11月 久保紀貴氏作「位置エネルギー看寿賞中編賞

47銀、同玉、65馬、36玉、72角不成、63歩、同角不成、54歩、
同角不成、46玉、55馬、47玉、65角、36玉、37歩、同桂成、
54角、25玉、34銀不成、同玉、45角、25玉、26歩、15玉、
33馬、24金、16歩、14玉、24馬、同玉、25歩、同玉、
15金、
まで33手詰

3手目は馬そっぽ。46に攻方の利きがあると、37玉に38歩が打歩詰になってしまう。 そこで5手目の角生に対して、試しに54によくある打診中合を打ってみよう。

同角成なら45歩合、同馬となれば46に利きができるので37玉で逃れ。 かといって同角生と取ると戦力不足でやっぱり逃れ。そこで54歩合は同馬と取るしかない。 同馬には47玉と逃げ、83角生とした局面。 ここでも引き続き46に利きができると37玉が打歩詰になるようにつくられている。

ここで74歩合と再びよくある打診中合を打てれば詰まない。ところが74歩は二歩だ。 手順は省くが、打診ができないためにここではもう早詰の局面になってしまっている。

戻って72角生に54歩合としたのがまずかった。正着は63歩合。

打診中合とは成生を打診する手であり、一般的にそれは四段目以降で行われる。 三段目では取っても成生の態度を保留できて打診にならないからだ。

当然この63歩合も生で態度を保留したまま取れる。同角生に54歩合と連続中合。受方のただの一歩損に思える。

ところが、だ。先ほどと同じように同馬、47玉、74角生と進めてみるとどうだろう。

これは先の83角生の早詰図から、74歩合、同角生と進んだ局面にほかならない。 二歩で打てなかったはずの74歩合を打ったことになっている。その歩がどこで打たれたかというと63だ。 63歩合はあとでは打てない打診合を前もって打った手だった。

これを我々は間接打診とか、事前打診とか呼んでいる。 作例も相馬さんの作品など、まだ数は少ない。

この間接打診の初出はなんだったか。久保さんは長らく糟谷さんか岡本さんの作品ではないかと見ていたらしい。次回に続く。

為せば成る短編コンクール

のんびり会で久保さんに面白いことを教えてもらった。 深和さんと香の成らせが衝突することは想定内だったというのだ。(ほぼ同一図で衝突するとは、さすがに思ってなかったらしいけど)

久保さんによれば深和さんは過去にも短コンで成らせをテーマにした作品を何度か発表したことがあるのだそうだ。

確認してみよう。手元にある2008年以降の詰パラで、深和さんが短コンに出品したのは以下の4作。

2009年12月 短コン8位 深和敬斗氏作

17香、16飛、15歩、13玉、46馬、同飛、14歩、
まで7手詰

時系列に並べたら、のっけから7手の合駒動かしで話が違うのだが、これはこれでいい作品。

あとで取られないためのひも付き移動合という、ただそれだけでは地味な狙いにアンピンを混ぜ、詰め上がり突歩で軽やかにまとめたところがおしゃれだ。飛車を取ると打歩詰で逃れる作意との対比にも注目したい。これが入選4作目。まじすか。

2011年12月 短コン10位 深和敬斗氏作

37金、同桂成、47銀、同成桂、46金、同成桂、45銀、同成桂、
37金、
まで9手詰

お待たせしました桂の成らせ。 作意だけ見れば絶対手の連続なんだけど、雑味や嫌味が無いところがいい。 ストレート。原型成らせのお手本みたいな作品で七色図式のおまけつき。

2013年12月 短コン22位 深和敬斗氏作

86銀、87桂、同飛、36玉、48桂、35玉、37飛、同桂成、
24銀不成、
まで9手詰

合駒動かしでも、成らせでもない。そのせいか順位も少し落ちてしまった。 構想としては、どこに動いても中合されて邪魔になる77銀を、せめて使いみちのある桂合と刺し違えるために86に限定移動する初手。 さすがにそっぽとは言わないかな。 飛車も捨てて悪くない仕上げのはずだけど、短編で合駒を取る展開は評点が伸びづらいのかもしれない。 48桂が28からは打てないのも地味ながら上手い。

2014年12月 短コン6位 深和敬斗氏作

38銀、同銀不成、27金、同銀不成、36金、同銀成、27金、同成銀、
38金、同成銀、27飛、
まで11手詰

銀の成らせ。 28飛がぶらなので、桂の成らせとは違って綱渡り的な手順になっている。 9手の素材に短コンに合わせて2手逆算だろうか。しかしこの逆算も秀逸。 不成の回数が増えたのはもちろん、2手目と6手目で28玉の変化が別の詰め手順になるのは気が利いている。

2015年12月 短コン 深和敬斗氏作

28金、同香成、27金、同成香、26銀、同成香、28金、
まで7手詰

桂、銀ときたので、ついに香の成らせ。これを久保さんは予想していたというわけ。

予想した上で、そこに同じ香の成らせをぶつけていったら、ほぼ完全衝突してしまったということらしい。 かすかに配置が違うので、点数も変わるのではないかと見ているが、はたしてどちらの作品が評価されるのか。

ちなみに久保さんの作品はこちら。

2015年12月 短コン 久保紀貴氏作

こちらの図には初手18金の紛れがある。 以下同玉、29金、同香成、27銀、19玉、18金、同香で逃れるために、この図の16は香でないといけないのだが、実は深和さんの図では初手18金の紛れが無いので16は歩でもよい。

作家的には見た目の統一感のために香を並べたいので、18金の紛れを残して16が香である必然性を用意した久保さんの図の方が妥当に思える。

ただ、実は2011年の深和さんの桂成らせの作品も、歩でいいところを香にしての七色図式だったので、今回も配置に何か意図があったのかもしれない。はたして深和さんの思惑とは。次回に続く。かも。

オーロラに先駆けて

四香連合の「オーロラ」(1973年)で有名な上田さんに「Aurora II」という四銀連合の作品がある。ただし二玉詰という変則ルールだ。

1989年 上田吉一氏作「Aurora II」

23桂、同馬、22と、同馬、23桂、同馬、77角、66銀、
同角、55銀、同角、44銀、同角、33銀、82飛成、44銀、
88銀、89玉、78銀、同玉、12龍、同馬、22銀、同馬、
18飛、
まで25手詰

11の玉に王手をかけ続け、7手目77角と打った局面。

ここで例えば22香合とすると、83飛成で99の玉が詰む。

したがって受方は常に角を取れる状態にする必要があり66銀合が最善手となる。(22馬は早い) 以下同様の論理で連続合である。

「オーロラ」は移動した先の角を取るための接合だったが、本作は移動しない角を取るための接合になっている。 しかしこのロジック、二玉詰であることに絶対の必要性はなく、11玉をどうにかして99まで運べれば、まったく同じことが普通詰将棋でもできる。

そしてなんと本作に先駆けること3年前に、普通詰将棋で同じことをやってのけた作品があった。

1986年 添川公司氏作「魁」

21角成、同成香、19龍、18歩、同龍、17歩、同龍、16歩、
同龍、15歩、同龍、14歩、同龍、13歩、同龍、12歩、
21銀成、同玉、31と、同玉、34香、33歩、32と、同玉、
33と、41玉、42と、同玉、22龍、53玉、54歩、64玉、
62龍、63金、65歩、同桂、63龍、同玉、64歩、同玉、
55金打、63玉、64歩、52玉、53歩成、同玉、54金、42玉、
43香、51玉、52歩、61玉、72香成、同成銀、同と、同玉、
63歩成、81玉、82歩、同玉、93銀、83玉、92銀不成、82玉、
74桂、同と、83歩、71玉、72歩、61玉、51歩成、同玉、
42香成、同玉、53金、51玉、52金、
まで77手詰

短い序奏を経て3手目の局面。普通は12歩合だろう。

これには21銀成、同玉、31と、同玉、33香、41玉、32香成、51玉、42成香、62玉

52成香、63玉、53成香、64玉、54成香、65玉、55成香、66玉、56成香、67玉、57成香、68玉、58金、69玉、48歩

と開き王手して詰み。 ここで12歩が18にあれば19歩成と龍を取って逃れていることに気付けば、戻って4手目は18歩合だったことがわかる。

そしてこの歩を同龍と取ったときになおも12歩合とすると、先ほど同様に6筋を追い落として今度は38桂を跳ねる開き王手が成立する。

以下7段目は27桂、6段目は26歩、35歩、24と、全ての段で開き王手する筋があるために、受方は常に龍に接して歩合をする必要がある。

あとは貯まった歩を消費しながらの収束。

なぜこれらの作品を取り上げたかというと、実は自分にも少し似たロジックの連続合の作品があるからだ。

「Aurora II」の存在はこの詰2012で知ったが、まさか普通詰将棋にも先行例があるとは思わなかった。 指摘はのんびり会の糟谷さん。さすがよく調べてらっしゃる。

そういえば半期賞作家だった

詰パラ新年号からデパートの担当になった。

デパートは馬屋原剛さんと大崎壮太郎さんのお二人が共同就任。いずれも半期賞の受賞経験がある若手実力派作家が顔を揃えました。

と、編集室に書いてある通り、実は私も半期賞作家だったのだ。

冬眠前に詰パラを処分してしまったせいで長い間その図面がわからず、誰にも紹介できない有様だったのだが、ついに先日ののんびり会でTETSUさんに調べていただき図面を手に入れた。

2003年 自作

36飛、同龍、46桂、同龍、56角、同龍、35金、
まで7手詰

この詰2015を見た人には見覚えのある筋だろう。

1991年1月 富樫昌利氏作 第77期塚田賞短編賞

56金、36玉、28桂、同龍、38龍、同龍、48桂、同龍、
58角、同龍、37金、
まで11手詰

1979年9月 六車家々氏作

67桂、同馬、57飛、同馬、47桂、同馬、37角、同馬、
57香、56桂、66金、46玉、56金、同金、同飛、45玉、
46飛、同馬、37桂、同馬、56金、
まで21手詰

どちらもこの詰2015「近代将棋を振り返る(平成篇)」から引用。

すべて打ち捨てにして、形も手数もコンパクトにまとめたのが自作の主張点だろうか。26桂捨てを諦めて7手で妥協したのは自分らしい。

半期賞受賞の言葉で「こんな作品が受賞するようでは詰将棋もお先真っ暗」みたいなことを書いたのは若気の至りである。

いまさら今月の詰パラの感想

11月12月と転職で慌ただしく過ごしていたせいで、詰将棋からも離れてしまっていたけれど、ようやく落ち着いた日々を取り戻してきました。 久々にブログを書いたせいで文体が敬体です。

今月の詰パラはなんといっても短コンの衝突でしょうか。

一ヶ月も前の話題なので何をいまさらという感じですが、しかしよく似ているとはいえ初形が違う以上は手順も違う可能性はあるので、解答募集期間中は「ほとんど同じ」という指摘すらタブーなのではないかとTwitterのタイムラインを見ながら内心思っていました。それにしてもまあほとんど同じですが。

聞くところによると作者の2人はどちらもシード権を持っているそうです。 しかし今回の作品で次回のシード権が取れるとも思えません。

それはおそらく作者も承知の上。 シード権を捨ててでも採用確定の場で発表しておきたかった小品なのでしょう。 この好形、早く発表しないと誰かに先を越されちゃいそうですもんね。

二歩のある風景

将棋連盟のサイトには二歩についてこう書かれている。

同じ筋に歩がある時に、もう一枚歩を打つことはできません。 下の図の左側のように同じ筋に歩が二枚ある状態を「二歩(にふ)」といいます。

同じ筋に歩が二枚ある状態を二歩と呼ぶのは異論の無いところだが、反則の内容については「歩を打つことはできません」と書いてあるのみで、駒を打たずに二歩に至った場合については言及されていない。

指将棋で二歩が発生するとしたら、打ったときしかないのでそれで問題ないのかもしれない。 しかし詰将棋では歩を打ってないのに二歩という局面がありえる。

2012年3月 中13 中出慶一氏作

初形二歩である。結果稿では「不正図」を理由に入選取り消しにされてしまっていた。

不正とはなんだろう。 将棋には必ず攻方王がいるので、単玉の作品ももしかしたら不正図なのかもしれない。 双玉の場合も不可能局面のことまで考えだすと闇は深い。

初形打歩詰はどうだろう

当然先手番である。14の歩は突いた歩ではないので、打歩詰局面だが、初形なので反則はとられないものとする(え?)

ここで例えば33歩成とすると、打った歩で詰んでいるので打歩詰の反則をとられる(え?)

そこで作意は16金と打歩詰を打開して14玉、25金右以下の9手詰である(え?)

しかし初形で反則をとられないとすると、後手玉が22あたりから13玉と突っ込んできた可能性もあるので、これを打歩詰局面と呼ぶのは難しそうだ。

閑話休題

二歩を打ってはいけないというのがルールだ。 初形で二歩の場合も、さかのぼればどこかで歩を打ったはずなので、不正図。 まあ、理解できる。わざわざ初形二歩の作品を手がけようとも思わない。

ところでフェアリーの一部ルールなら歩を打たずに(移動させて)二歩を発生させることができるはずだが、それは禁手扱いされているのだろうか。

将棋世界11月号付録詰め手筋サプリII No.26

えび研で将棋世界11月号付録の詰将棋が妙に解きづらいと話題になっていた。 書店にはもう12月号が並んでいるので図面を載せてしまおう。

2015年10月 児玉孝一氏作

答えを明かせばなんてことのない9手詰だが、詰将棋慣れしている人ほど解きにくいかもしれない。

答えを知りたい方はマイナビのサイトでバックナンバーをどうぞ。 アフィリエイトではないので、ここから買われても私は一銭の得にもなりません。 (私は買いました)

book.mynavi.jp

ちなみに何が一番の驚きだったかというと、某同人目前若手作家が作者を知らなかったことです。ジェネレーションギャップ。