書きかけのブログ

詰将棋について書くことがあれば書きます

成らせない連合

だいぶ前に書いて放っておいたのを、このままでは出すタイミングが無くなりそうなので、公開しておく。1年前の看寿賞のときの話だ。

馬屋原さんの二飛連合が成らせないための連続合駒ではないかという指摘が相馬さんからあった。 指摘自体はその後撤回されたのだが、たしかに同じ系譜にあるかもしれないと思ったのでここで改めて広瀬さんの成らせない連合一号局を見てみよう。

2015年3月 広瀬稔氏作

23と、84銀、同飛、74銀、同飛、64銀、同飛、54銀、
同飛、同桂、13と、同玉、24銀、同香、12角成、14玉、
23銀、同と、同馬、同玉、34銀、32玉、33銀成、41玉、
51歩成、同玉、73馬、62銀、42銀打、同金、同成銀、同玉、
64馬、53銀、43歩、51玉、52歩、62玉、73金、52玉、
63金、41玉、42歩成、同銀、同馬、同玉、53銀、41玉、
52金、
まで49手詰

2手目、普通にしたら54歩合だろう。

しかしこれでは13と、同玉、93飛成と1回成るのが好手で、以下、43歩合、12角成、14玉、15馬、同玉、16香、26玉、96龍から詰む。

そこで2手目は84銀合。

これなら13と、同玉に93飛成とすることができない。仕方なく12角成、14玉、15馬、同玉、16香、26玉、96飛と進めてみるが、ここで96が生飛車なので詰まなくなっている。

そこで84銀合は素直に同飛と取る。3段目で飛車を成って、6段目に引く手が常にあるため、玉方は必ず飛車に接して銀を合駒しなければならない。

以下、同飛、64銀合、同飛、54銀合と四連続で銀合を放ち、同飛、同桂から収束である。

これが成らせない連合。では次に馬屋原さんの作品を見てみよう。

2015年11月 馬屋原剛氏作

93角、84飛、同角成、75飛、同馬、46玉、55銀、同玉、
54飛、同玉、44飛、63玉、64馬、62玉、73銀、71玉、
82銀不成、62玉、73馬、53玉、45桂、同角、64馬、62玉、
73銀不成、71玉、41飛成、61桂、同龍、同玉、62歩、71玉、
83桂、81玉、82銀成、
まで35手詰

2手目に66桂合や84歩合とすると、58歩、46玉、82角成とされ、この期に及んで72角が取られたくないと73金合しても

55銀打、36玉、72馬、同金、45角で詰んでしまう(まあ、73金合は取っても詰むけど)

82に馬を作られると、72角を取る筋を防ぐことができなくなるのだ。そこでそもそも82に馬を作らせないことが大事になってくる。2手目84飛合がそれだ。

これなら82角成とできない。しかしこの飛合、普通に同角成と取ると今度は73角成から72馬の筋で角が取れてしまう。そこで玉方の抵抗は続けざまに75飛合。

これで72角を取られずに済む。以下収束。

82や73に角の成駒が発生すると72角を取られてしまうので、成らせない連合のようでもある。しかしそもそも73は馬でいくし、初手が93馬でも作意は成立するはずだ。そこで本作は成らせないための連続合駒ではない。では何か。実はただの「駒を取らせないための連続合駒」なのだ。そしてこれがどうやら新構想らしい。言われてみると単純な話なのだが、シンプル過ぎて逆に誰も気付いてこなかった意味付けかもしれない。

玉の他にも取られてはいけない駒(72角)があるという点で、この意味付けには二玉詰のような雰囲気がある。連続合駒と二玉詰は相性がいいのだ。きっと。前もそんなことを考えていた。

幻の看寿賞のまぼろし

41角成、同飛、33銀成、同桂、29香、27桂、同香、14玉、
26桂、23玉、22飛、同玉、34桂、32玉、22香成、
まで15手詰

えび研で鈴川さんにこの作品を見せられたとき、これは看寿賞だと思った。おそらくその場に居合わせた人全員が同じ感想を抱いていたと思う。いずれ鈴川さんはこの作品でA級順位戦を優勝し、その年の看寿賞短編賞を取る。そう思っていた。

ところが発表された図は違うものだった。

2016年8月 短10 鈴川優希氏作

61角、52金打、53金、32玉、42金、同金、22金、同玉、
14桂、23玉、29香、27桂、同香、14玉、26桂、23玉、
22飛、同玉、34桂、32玉、22香成、41玉、42桂成、同玉、
43角成、同玉、53金、
まで27手詰

去年の看寿賞はまだ決まっていないので、まだどうなるか分からないけど、個人的な意見を述べさせてもらえれば、これは看寿賞ではない。元の図も鈴川さんがブログのコメント欄で発表しているので、そこから看寿賞に選ばれる可能性もゼロではないが、しかし現実的に考えれば、この「推敲」によって、鈴川さんは看寿賞をひとつ取り逃したと言ってしまってよいだろう。

ところが、である。

先日、馬屋原さんにある作品を見せてもらった。

2002年4月 高17 塚本惠一氏作

23角成、同玉、29香、27桂、同香、14玉、26桂、13玉、
14飛、23玉、22銀成、同玉、34桂、32玉、22香成、
まで15手詰

もちろん、詰め上がりに飛車が残らない鈴川図が優るが、この作品があってはどのみち(先行例に厳しい)看寿賞は受賞できなかっただろう。 変に賞を狙わず、自分が納得いくまで推敲した図で発表した鈴川さんの行動は正しかったのかもしれない。

詰将棋は電気羊がどうたらこうたら

1月号でeurekaの作品を5題並べたデパート担当としてあらかじめ宣言しておくと、あれはただの悪ふざけで特に深い意味は無い。

詰将棋パラダイスはそういった悪ふざけに寛容な雑誌であると思っているし、実際に原稿を送ったときも編集部から難色を示されていない。もちろん締め切りギリギリに原稿を送ったことが原因かもしれないが。

自動創作である。

大量の図面を片っ端から柿木将棋に解かせることを、はたして自動創作と呼んでいいのかは分からない。けれどこの騒動を見ているうちに、自分はトヨタの自動運転についてのニュースを思い出していた。

Prattによると、SAEの“Level 5”に相当する完全な自動運転は、“実現が近いとは到底言えない”。

詰将棋の完全な自動創作も、実現が近いとは到底思えない。

ただ、実現が遠くても、それを脅威に感じることは理解できる。自動運転の場合はタクシーやトラックの運転手が反対したりするわけだけど、それはそれで意味があって、もしかしたらお上が規制して自分たちを守ってくれるかもしれないからだ。

でも詰将棋にはそれがない。だから自動創作反対を訴えたって仕方のないことだと思う。

図巧を読み解く 第四番

35金、同金、46桂打、44玉、35角、同玉

ここまでは序。

ここから24角!と初形にいた角を再び打つのが筋の一手。34金があるので同香とは取れないが、残念ながらいまは同飛で後続手段が無い。そこで遠回りする。

17角

これも取ると34金があるので取れない。やむなく捨て合いするが

26歩、同角、24玉、15角、35玉

となり、ここで改めて24角!とすると、さっきの局面から1歩増えている計算。

24角、同飛

1歩増えたからなんだという局面だが、ここで続けざまに25龍!がこれも同飛と取れないことを見越した手。同玉と取らせれば26金と上から抑えつけられる。以下収束。

25龍、同玉、26金、14玉、15歩、13玉、22銀不成、12玉、
11銀成、13玉、14香、同飛、同歩、同玉、15飛、24玉、
25金、33玉、34金、32玉、12飛成、41玉、31と、同銀、
52龍迄39手。

24角、25龍と捨てる手は派手だが言ってしまえばただの焦点捨て。17角から1歩稼ぐのは構想というほどでもない。26桂合を防ぐために4桂配置してまで?という気もする。

図巧を読み解く 第三番

図巧を並べたのは詰将棋を始めた初期の初期で、当時はわけもわからず見ていた。いま改めて鑑賞してみようと思った。

第三番から始めたのは一番と二番が有名すぎるからだ。第三番は現代的に言えば広義の打診、不成強制といったところか。

77銀、95玉、96金、94玉

ここで95歩は打歩詰。かといって85金では同飛成で龍が強く全く詰まない。そこで86桂と打つ。

これを同飛成では打歩詰が打開されて95歩で早い。やむなく同飛生と取るが、それから85金とすれば龍ではなく生飛を残すことに成功し、以下収束である。

同飛不成、85金、同飛、
95歩、同玉、96歩、94玉、86桂、同飛、95歩、同玉、
86銀、同玉、83飛、76玉、85飛成、66玉、55龍、同玉、
56馬、64玉、65馬、73玉、83角成、63玉、74馬上、54玉、
65馬、63玉、74馬引、72玉、73歩、61玉、43馬、同歩、
51と、同玉、41馬、同玉、42金迄45手。

収束は現代の感覚すれば冗長。しかし途中55龍や

54歩の原形消去から43馬、41馬と切れ味鋭く仕上げてある。

打歩詰局面から桂捨て、同飛生というのは、いまやよく見る筋だが、短手数でまとめないところがさすが献上図式といったところだろうか。

森田手筋回避の移動合

森田手筋とは、合駒を発生させたあとに、その王手駒を消せば、合駒が自由に動けるようになって、それが取歩駒に使えるという手筋だ。

そこで攻方が王手駒を消しにかかるのと同じように、対抗して受方も合駒を消しにかかれば、森田手筋を回避することができるはずである。実際に作例もある。

2015年3月 第12回詰将棋解答選手権 武島広秋氏作

46銀、44玉、45銀、同玉、37桂、44玉、46飛、同桂、
43桂成、54玉、55歩、43玉、65角、54桂、34銀、44玉、
45銀、43玉、54銀、44玉、45銀、55玉、56歩、65玉、
57桂、同馬、66歩、同馬、74銀、
まで29手詰

この作品では合駒を消すのに玉の移動(いわゆる不利逃避)を使っているが、合駒自身の移動を使うという手段もありえる。それが7月号のデパートで発表された2題。

2016年7月 デパート 久保紀貴氏・井上徹也氏合作

74飛成、54角、35金、同玉、75龍、65角、26金、44玉、
64龍、54角、55龍、同銀、45歩、同角、43銀成、
まで15手詰

2016年7月 デパート 武島広秋氏作

56銀、46玉、47銀引、45玉、27角、同馬、15飛成、35角、
56銀、46玉、16龍、26角、同龍、同馬、47銀引、45玉、
54角、同桂、46歩、同桂、56銀、
まで21手詰

この構想を図化する際、収束は2パターンが考えられる。別の取歩駒を用意するか、逃げた取歩駒を元に戻すか。もちろん当初の打歩詰と全く関係ない別の収束を用意することもできるけど、そんなことをする作家はなかなかいないだろう。

別の取歩駒を用意するのは比較的簡単だ。合駒を取って、その駒を捨てて別の取歩駒を引っ張ってくればよい。角を捨てて桂を引っ張ってくるのは不利逃避の一号局でも使われているセオリーで、この構図でまとめた武島さんの作品は一号局らしくシンプルだが序奏の味付けが上手い。合駒で出す角を先に捨てるあたり自分も好きな作り方だ。

一方、移動合で逃げた取歩駒を再び元の位置に戻すのは少し難しいが、こちらを採用すると移動合を紐なし中合にしやすいというメリットもある(取ったら取歩駒が無くなるので、紐があってもなくても取れないからだ)。森田回避から再度の森田手筋に持ち込んだのは、さすが久保さんというところである。

さて、森田回避の収束には2パターンあるわけだが、冒頭に紹介した不利逃避バージョンの森田回避は別の取歩駒を用意するものだった。では「取歩駒を合駒で発生させたら、それを玉方が不利逃避して取らせにかかったけど、取らず手筋でやり過ごしてやっぱり取歩駒として使う」というパターンもきっと作れるだろう。

そう思って作ってみたのがこちらの作品。と言って図が用意できたらよかったのだが、あいにくまだ無い。

取らせ合駒に見えてきた

今年の全国大会には斎藤仁士さんが参加されていたらしい。

斎藤仁士といえば史上最高の香先香歩が有名だが

1976年2月 斎藤仁士氏作

氏の作品を見返していて気になったのはこの作品だ。

1995年9月 斎藤仁士氏作

初手59香に普通に55歩合としてみよう。

以下長いが64龍、45玉、44龍、36玉、35龍、27玉、29香、同と、37龍、16玉、17龍、25玉、15龍、34玉、35龍、43玉

ここで本当は55桂が一番早いけどとりあえず無視して44龍、32玉、42龍、同玉、33銀打、41玉としてみると(最後の41玉も本当は43玉の方が長いけど)

42歩が打てるので詰む。

2手目に56歩合としても58歩合としてもほとんど同じ結果だ。では57歩合なら?

先ほどと同様に64龍、45玉、55龍、36玉、35龍、27玉、29香、同と、37龍、16玉、17龍、25玉、15龍と追い回すが

先ほどとは違いここで36玉とする手がある。以下、35龍、47玉、37龍、56玉、57龍で57の歩を取らせることができて(その副作用で47桂も消えるのが惜しい)

45玉、55龍、34玉、35龍、43玉、44龍、32玉、42龍、同玉、33銀打、41玉となった局面、57歩を取らせた効果で歩が打てなくなっている!

これを今の私たちは「取らせ合駒」と呼んでいるような気がする。

作意は以下52香成、同玉、62角成、41玉、63馬、52金、同馬、同玉、53歩、同玉、44金、52玉、53歩、41玉、42銀成、同玉、33銀成、51玉、52歩成、同玉、43金、51玉、42金までの53手詰。