書きかけのブログ

詰将棋について書くことがあれば書きます

思わずスクショした対局2019(1)

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83歩成で後手投了。同金と取れば74歩が打てるようになる打歩詰打開の手筋。

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実戦は21金、12玉、24桂、同歩、23銀、同金、42龍で詰ませたが、ここで12金と放り込むのが一番速い詰みだった。Twitterで見た指摘。

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85金は41角の利きを自ら遮る打歩詰誘致。実戦は87銀と縛らず、96歩、同玉、87銀打、85玉(これも打歩詰局面)、76銀生と進めて後手が勝った。

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81にいた飛車を85にただ捨てして先手投了。

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ここで77金と縛れば先手勝ちが感想戦の結論。棋譜コメントにある17桂合は、まさに詰将棋みたいな手だが、詰将棋業界的には中合ではなく捨合か。

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打歩詰。19角成と香を取って詰めろがかかったが98香、96香、97香、同香成と持駒変換してから56飛と回って先手が勝った。

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たしかに詰んでいる。

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38桂、同歩成で打歩詰を打開して、27歩、37玉、15馬、47玉、25馬で後手投了。以下は詰む。

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77桂生、59玉、69桂成の二段跳ねで先手が投了した。もし同玉なら57桂の打ち換えである。

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実戦は58銀生、同飛の2手を入れてから76角、96玉、85金以下詰ませたが、58銀生は入れなくても詰む。

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二歩禁回避の香先香歩。しかしこの後は先手負け。

鶴田手筋?

前回の記事に対して興味深い返信をもらった。

昭和63年度看寿賞 鶴田康夫作

84桂、同歩と捨てて、普通は74龍の一間龍を狙うところだろう。ところがそれでは62玉、51馬、53玉でどうにもならない。

しかしこの局面でもし74龍が75にいたら

55龍と回って簡単である。

そこで戻って3手目は75龍が正解手ということになる。対して74歩と弱い中合では73金から84龍で詰みなので、74金と強い駒を渡すしかなく、以下紐なし馬捨ての収束。

で、この75龍が金子作にも通じる「近づくと損をするので、あえて遠ざかる手」というわけだ。

なるほど。昭和63年看寿賞。看寿賞作品集で一度は見たことがあるはずだけど、すっかり忘れていた。鶴田手筋、今度は自分でも作ってみよう。

同人室の金子作の見どころを間違えていた

同人室首位の金子作の評判がよい。

2019年6月 同人室 金子清志作

25飛、36玉、26飛、同玉、48馬、35玉、26馬、同玉、
27馬、35玉、39香、24玉、33銀不成、23玉、38馬、29と、
24歩、34玉、56馬、まで19手。

33銀生に23玉としたところ。

ここで24歩が打歩詰なので、38馬と香の利きを自ら遮ってから歩を打ち、34玉、56馬までの作品だ。38馬と香筋を遮るためには39に香を打つ必要があり、そのため元々39にいる馬が途中で邪魔になるので捨てる作りになっている。

結果稿でこの作品を見たときは、ブルータス手筋の38馬のための39香遠打のための39馬消去という論理の繋がりが面白いんだなと理解した。ところが昨日のうま研で「そもそも38馬という手が面白いんですよ」と指摘され、なるほどと唸った。

どういうことかというと、やはり23玉のこの局面。

普通は攻方の駒は玉に近づいた方が有利だ。だからブルータス手筋で打歩詰を打開するにしても、自然に指すなら36馬とするはずである。ところがここで36馬では29と、24歩、34玉としたときに45馬と作意同様の両王手を仕掛けても同玉とあっけなく取り返されてしまう。つまり、あとで玉に取られないために、馬をあえて遠ざけているのが38馬というわけだ。39香遠打や39馬消去を一旦忘れて、36馬と38馬の対比を見るだけでも確かに面白い。

ここで「近づくと損をするので、あえて遠ざかる手」で思い出したい作品がある。

1986年 第68期塚田賞中編賞 若島正

55角成、33飛、同香不成、22玉、32香成、13玉、23角成、同香、
15飛、14角、22馬、24玉、33馬、13玉、25桂、同香、
14飛、同玉、23角、13玉、12角成、同玉、22馬、まで23手。

初手44角成は33金合と変化され、以下同香生、22玉、23金、11玉、32香成と進んだときに、44飛と初手に成った馬を取られてしまう。ところが初手が55角成ならそこで44歩合、同馬、同飛で1歩稼げるというわけだ。

若島作は馬を飛車でただ取りされないために、金子作は馬を玉で取り返されないために、あえて遠ざかっておくというところに共通点がある。一人で結果稿を漫然と読んでいるだけでは、ここまでの鑑賞には至れなかった。うま研に感謝である。

馬屋原剛という男

盤上のフロンティアに作品が引用されている作家は、宗看、看寿を筆頭に20名いるが、その中で唯一の若手作家といえば他でもない馬屋原剛その人である。

馬屋原さんといえば看寿賞受賞作をはじめ長編趣向作家のイメージがある一方、前例の無い中編構想作も数多く手掛けている。

スマホ詰パラ「豪勢な食事」の元ネタになった飛車の連続合や、

2015年11月 詰パラ 馬屋原剛

この詰2019でも言及されている香の限定打も記憶に新しい。

2019年2月 詰パラ 馬屋原剛

しかし今回は自分が勝手に「解答選手権のチャンピオン戦ではなく一般戦で出題されたために、歴史のひだに埋もれてしまっているのではないか」と思っているこの作品を取り上げたい。

第14回詰将棋解答選手権一般戦 馬屋原剛

56金、同玉、47銀打、55玉、64歩、75馬、56銀、同玉、
47金、55玉、56歩、44玉、57金、53玉、63歩成、まで15手。

49香の活用方法が玉を44に落として開き王手するくらいしかないので、それを目指す。まず単純に考えると初手から56銀、44玉、57金だろうか。これは53玉で詰まないのだが、このとき65の歩が64まで来ていれば63歩成までの詰みだ。

そこで初手64歩としてみる。以下、75馬、56歩、44玉、57金、53玉で今度は63歩成が指せるので詰み、のように思えるが、これは2手目の応手が間違っていて、75馬の代わりに75金とされると、56歩、44玉、57金のときに根本の香を49馬と抜かれて詰まなくなる。

このとき開き王手する47の駒が金ではなく銀だったら、58銀と開いたときに馬筋を遮断できることに気付けるだろうか。2手目75金の変化に備えて、初手から56金、同玉、47銀打と打ち替えるのが作意である。ちなみに75金とされてから打ち替えようとしても56金、同玉、47銀打、57玉、58金、同馬で詰まないので、先に打ち替えておく必要があるのが、当然ながらうまく作ってあるところだ。

これだけでも面白い意味付けの打ち換えなのだが、本作はもう一味ついている。打ち替えてからの64歩に対して、作意は75馬と取るが、そこですぐに56歩と打つと、以下44玉、58銀となって

これは48歩合くらいで詰まない。馬筋が通っているのだ。そこでこの馬筋を遮断するために、再び47の銀を金に打ち替えて57金と開き王手しないといけないというわけ。

変化に備えて金を銀に打ち替えて、すぐさま銀を元の金に打ち替える。それが開き王手で馬筋を遮断するためという統一された意味付けの上で成り立っているのが抜群の構成である。佳作。

ところで金駒で開き王手する馬屋原さんの作品といえば、やはり思い出すのはこの作品。

2019年2月 詰パラ 馬屋原剛

97香、83玉、61馬、72桂、98銀、73玉、79飛、83玉、
72馬、同銀、93香成、同玉、85桂、83玉、72飛成、同玉、
73銀、83玉、84飛、92玉、94飛、83玉、93飛成、74玉、
84龍、まで25手。

作意では5手目98銀と香筋を残すが、4手目72歩合なら96銀と香筋を自ら閉じて打歩詰を回避する必要があり、そのどちらも実現できる香の打ち場所が唯一97のみという斬新な意味付けの限定打。

本作も87の駒が金ではなく銀だから選択肢を残せる香打が成立するわけで、例えば金を銀に替えてから香を打つ構成にすることも、理論上はできるはずだ。(この作品の87銀を金にしても詰んじゃうけど)

だからこの97香も解答選手権の作品から派生して作られたに違いないと思ったんだけど、本人に聞いたところ特に関係はないらしい。意外。

この作品も下手に作ると76銀や78銀の開き王手を殺すために7筋に駒を置いたりしちゃうんだけど、開き王手で使った89飛を7筋でも使うことでこれに対処しているのがやっぱりうまい。

逆回転趣向

7月号解説の院8馬屋原作が何をやってるのか分かっただろうか。自分は一読しただけでは漠然としか分からなかったので、ここで理解を整理したい。

院8を鑑賞する前に、まずは基礎編から。

未発表 馬屋原剛

21飛、32玉、23飛成、41玉、63角成、52と、

21龍、31飛、同龍、同玉、64馬、53と寄

21飛、32玉、65馬、43と上

23飛成、41玉、74馬、52と

これでひとつ遠ざかったことになる。63の馬が74に移るのに必ず要する2手のあいだに馬は3回動き、飛打飛合は1度だけ行われていて、これはとても分かりづらい伝統的な表現に従えば「3段2手馬鋸」ということになる。

馬が王手できるラインは3つあるが、遮ると金が2枚いるので開いているラインは常に1つだけだ。手順を追うと、そのと金のスリットは52→53→43→52の順に開くようになっている。

一方、玉と飛打飛合の方に注目すると、玉は41→31→32→41の順に動いており、これは馬のラインで考えるとと金のスリットと同じ順に動いていることが分かる。

つまりA→B→C→Aと動く玉に対して、馬の王手もA→B→C→Aとできるので、A玉→A馬→B玉→B馬→C玉→C馬→A玉→A馬となり、馬がひとつ遠ざかるのに、飛打飛合が1回だけ行われるというわけだ。

それを踏まえて院8。

2019年4月 馬屋原剛

41飛成、23玉、21龍、22飛、同龍、同玉、55馬、44と寄

21飛、32玉、41飛成、23玉、56馬、34と上

21龍、22飛、同龍、同玉、21飛、32玉、65馬、43と

41飛成、23玉、21龍、22飛、同龍、同玉、66馬、44と寄

やってることはほとんど前の作品と同じで、飛打飛合しながらの馬鋸なのだが、今度は馬がひとつ遠ざかるのに、飛打飛合が2回行われていることに気付いただろうか。この違いがどこから来るのかという話である。

と金のスリットの機構は前作から平行移動しただけだ。44→34→43→44で巡っている。変わっているのは飛打飛合の方で、この玉の移動が前作から逆回転になっているのだ。

どういうことかというと、馬のラインで見たときにと金のスリットがA→B→C→Aと移り変わるとすると、本作の玉はA→C→B→Aと動いているということだ。この玉にスリットから王手しようとすると、A玉→A馬→C玉→(C馬とはできない)→B玉→B馬→A玉→(A馬とはできない)→C玉→C馬→B玉→(B馬とはできない)→A玉→A馬という手順が必要になる。

このとき馬がA→B→C→Aと一巡してひとつ遠ざかるあいだに、玉はA→C→B→A→C→B→Aと2回転しているのだ。55の馬が66に移るのに必ず要する2手のあいだに馬は3回動き、飛打飛合は2度行われているので、これは「3段1手馬鋸」ということになる。

この、2つの回転趣向の片方を逆にすることでサイクルをふくらませる機構、現実世界の何かで喩えられそうなのだが、いまいち良いものが思いつかない。

東京駅から山手線に乗って、池袋、渋谷と経由して東京に戻る経路を考えたときに、内回りに乗れば東京→池袋→渋谷→東京の1周で済むところ、間違えて外回りに乗ってしまうと、東京→(渋谷を通過)→池袋→(東京を通過)→渋谷→(池袋を通過)→東京で2周かかるという話なのだが、うーん、もっといい喩えが無いものか。

思わずスクショした対局2018

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2018と言いながらいきなり2017年のJT杯深浦豊島戦。74歩では打歩詰となるところ、73歩と控えて打ったのが、あとから突けば禁手にならないという先打突歩詰の手筋。

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劣勢の先手が33成桂と桂馬を取った局面。本譜は62玉と早逃げして後手が勝ちきったが、画像のコメントにもある通り59飛生で詰んでいた。

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16歩、同玉に27銀と放り込んだのが最後のお願い。同玉なら詰まないようだが、先手がこれを同金と取ってしまい、以下18飛成、17合、27龍からの詰みで後手勝ち。

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一手勝ち模様の後手が詰めろで打った55桂が実は悪手。52と、33玉に24銀の強手で詰んでしまった。同歩と取るしかないが23金、同金、32金、同玉、42飛、33玉、44銀となって、これを同角で取れないのが55桂の罪。

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詰ませば後手勝ち。作意は64飛、同馬、83歩、75玉、65金、同馬のスイッチバック。以下は74銀から収束。

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打歩詰の局面。打開の一手は73馬捨てで、同桂に52歩が打てるようになっている。狙いとしてはやや地味か。

良いお年を。

ミクロコスモスの1筋の折り返し

とり研に参加した際に「ミクロコスモスは1筋の折り返しがすごいですよね」という話をしたら、久保さんらに「長編を作らないので、そこに着目したことがない」と言われてしまった。自分も長編作家のつもりはないけど、しかしミクロコスモスの1筋の折り返しはすごいのだ。

1986年6月 橋本孝治氏作 ミクロコスモス

普通、と金知恵の輪で折り返そうと思ったら

24と、35玉

とするか

12と、23玉

とするかだろう。つまり16桂とか11王とか、端のと金を取られないために利かす駒を、往復する領域のさらに外に置くのが普通だ。ところがミクロコスモスはこう。

11成香、22玉

なぜ11成香が取れないのか。

430手目45と

24桂、同歩、89馬、45ととした局面だ。作意はここから11成香、22玉と進むが、11成香を取ったらどうなるだろう。

11成香、同玉、13龍、12合

21と、同玉、23香、11玉、22香成で詰みだ。12金合が無い、23が空いている、13で香を拾えるという条件のもと、うまく変化処理されている。 しかも13で香を拾えるという条件は、それがそのまま香を13に運んでくる意味付けにもなっているのだ。効率がいい。

ところが1筋で折り返すのはこの局面だけではない。

124手目13歩合

先ほどの局面は14龍が24に移っていくところだったが、今回は逆に24龍が14に移ってきた局面である。24桂捨てが入ってない状態でも折り返さないといけないのだ。11成香を取ったらどうするのか。

11成香、同玉、13龍、12香合、同龍、同玉、25桂

18金、14香、22玉、13桂成、11玉、12成桂まで。

17桂と18香のバッテリーが控えていたのだ。この2枚は最後25桂、同銀、14香、同銀で収束に入るためにも使われており、こちらもやはり効率がいい。

当たり前だが、24桂捨てが入っている局面では、この手順では詰まないようになっている。(じゃないと13に香を運ぶ意味付けが成立しない)

よくもまあこんな隅の隅で、利きもなしにと金知恵の輪を折り返そうと思ったものである。脱帽。