2011年1月 糟谷祐介氏作
85金、同と、51角不成、62と、85銀、75玉、74飛、同桂、 42角不成、53と、76銀引、66玉、33角不成、44と、同角成、55歩、 同馬、57玉、49桂、同と、46馬、66玉、67銀、75玉、 76歩、84玉、85歩、93玉、94歩、同玉、95馬、同玉、 73馬、94玉、84馬、 まで35手詰
担当の利波さんをして「この作品は今年度の看寿賞、いや詰将棋史上に残る作品であり」と言わしめた力作であり、 にも関わらず看寿賞を取っていない悲運の名作だ。(この年の中編賞は該当なし)
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- 平成23年度看寿賞・門脇芳雄賞: 詰将棋メモ
作意は攻方の角生にと金の移動中合を3回繰り返すのだが、まずは最後の移動中合が出る13手目33角生の局面から見ていこう。
ここで素直に55歩合とすると同角生と取られ、以下57玉、49桂、同とに58歩が打てるので早い。 そこで44に打診中合を放ち、同角成と取れば改めて55歩合で打歩詰に持ち込むのが受方の習いある手筋だがあいにく4筋に歩は打てない。 そこで飛び出すのが44との打診移動中合というわけだ。
この局面で移動中合をするために、初形では71にあると金を運んでくるのが受方の責務である。 そこで戻って9手目42角生。
作意は53と。先述の通り、あとで44に移動中合するために受方にとっては必然の手だが、攻方がこれを取れないのは不思議だ。 なぜなら作意ではあとで44との移動中合を同角成と取って44馬の形から収束に入るが、ここで53とを同角成と取って64合から作意に合流して44馬と活用すればほとんど同じ形になるからだ。
当然のことながら53とは同角成でも生でも取れないようにできている。 取ると64金合とされ、64香合とは違って55に利くので作意には合流できず、勢いこれも取るしかないが、以下、同玉、37馬、53玉、43金で62が抜けている。
つまり9手目42角生にいきなり64金は62が塞がっていて詰むが、53と、同角とと金を消してから64金合なら詰まないのだ。 53と移動中合は(あとの打診中合に備えた手でもありながら)直接的には邪魔駒消去の意味付けになっている。
では最初の移動中合の意味付けはどうだったのか。3手目51角生とした局面。
作意は62とだ。しかしこの62とは、あとで邪魔駒になることを私たちは知っている。なぜわざわざ邪魔駒をつくる必要があるのだろう。
仮にここで73歩合としてみる。 すると以下、85銀、75玉、74飛、同桂、76銀上(ここで42角生は、62との邪魔駒が無いのですぐに64金合で詰まない)66玉、33角生で44に打診中合ができない!
戻って62とを同角生と取った場合は以下、73歩合、85銀、75玉、74飛、同桂、76銀上、66玉、44角(成もしくは生)で既に打診された形になっている。
62と移動中合は(53と移動中合と違って)紛れもなく間接打診合だ。
しかし改めてもう一度考えてみよう。62とが間接打診合で、44とが直接打診合だとするならば、攻方はどちらを取ってもいいはずである。 作意はあとで44とを同角成と取るので、であれば62とを同角成と先に態度を決めてしまって、作意に合流してもよいはずだ。
しかしこれも(53とが取れないのと同じように)やはり成立しない。62とを同角成と取ると、73歩合から以下作意同様に進むが最後にその73歩が邪魔になって詰まないのだ。 (私見だが間接打診や高木手筋は最初の合駒を取らないでつくる方が難しいと思う)
62とが取れないのは73歩が発生するから。53とが取れないのは邪魔駒が消えて64金合が成立するから。 そこに44の打診合に向けたと金の連続移動中合が絡み、ただの間接打診の一作品とはいえない複雑な仕上がりになっている。
作者は「王から遠く離れたところで、角がと金と戯れるイメージを具現化しました」と書いており、 手順の具現化のために選んだ手段が、たまたま間接打診だったということのようだ。
間接打診が主題であれば、移動中合を二度も繰り返さず、もっと単純化した図を選んでいただろう。 それに当時はまだ「間接打診」という言葉すらない。
次回は本作よりさらに前の、本作に比べればいくらか素朴な岡本さんの作品を見てみる。