「大崎くんが大橋さんに聞きたいことがあるらしいよ」と角さんが言って大橋さんと語る場が開かれた。そこで聞いた話。
大橋健司氏作 平成3年度看寿賞中編賞「迷宮の王」
まず聞きたかったのは、初手が必要なのかということ。 その後の手順と比べると異質な初手は、いまの作家なら大半が省くのではないかと自分は思っているが、当時の大橋さんは初手58龍の紛れを入れたかったのだそうだ。
なるほど、まあ、入れたかったのなら仕方ない。仕方ないというか理解できる。入れたい手は入れるのが作家だ。 ただ、いずれ作品集を出すときは図を変えるかもしれないともおっしゃっていたので、やはり時代に応じた価値観の変化はあるのだろう。
もうひとつ聞きたかったのは歩でもよいはずの45がなぜ香なのかということ。
それの答えは面白かった。完成図を得たときに45には香がいた。それは創作や推敲の中で、ある瞬間には香でないといけなかったのだ。そして完成に至った。そのときに改めて45の駒を歩に変えて、再度頭から検討し直すだろうか。
これも柿木将棋のある現代なら別の話だが、やはり当時では大きなリスクだったに違いない。 (とはいえ投稿直前に魔が差して浅い検討で駒配置を変えることは、いまの作家でもよくやるミスで、そういう図はだいたい潰れている)
ところで「迷宮の王」の初手については久保さんの指摘がとても良かったので、それもついでに取り上げたい。初手を開き王手にする案だ。
初手45香の一間上がり。45だと後で邪魔になるが、45に上がるしかないのだ。43香も初手香成の防ぎに役立っており味がいい。さすが平成生まれ。