書きかけのブログ

詰将棋について書くことがあれば書きます

逆回転趣向

7月号解説の院8馬屋原作が何をやってるのか分かっただろうか。自分は一読しただけでは漠然としか分からなかったので、ここで理解を整理したい。

院8を鑑賞する前に、まずは基礎編から。

未発表 馬屋原剛

21飛、32玉、23飛成、41玉、63角成、52と、

21龍、31飛、同龍、同玉、64馬、53と寄

21飛、32玉、65馬、43と上

23飛成、41玉、74馬、52と

これでひとつ遠ざかったことになる。63の馬が74に移るのに必ず要する2手のあいだに馬は3回動き、飛打飛合は1度だけ行われていて、これはとても分かりづらい伝統的な表現に従えば「3段2手馬鋸」ということになる。

馬が王手できるラインは3つあるが、遮ると金が2枚いるので開いているラインは常に1つだけだ。手順を追うと、そのと金のスリットは52→53→43→52の順に開くようになっている。

一方、玉と飛打飛合の方に注目すると、玉は41→31→32→41の順に動いており、これは馬のラインで考えるとと金のスリットと同じ順に動いていることが分かる。

つまりA→B→C→Aと動く玉に対して、馬の王手もA→B→C→Aとできるので、A玉→A馬→B玉→B馬→C玉→C馬→A玉→A馬となり、馬がひとつ遠ざかるのに、飛打飛合が1回だけ行われるというわけだ。

それを踏まえて院8。

2019年4月 馬屋原剛

41飛成、23玉、21龍、22飛、同龍、同玉、55馬、44と寄

21飛、32玉、41飛成、23玉、56馬、34と上

21龍、22飛、同龍、同玉、21飛、32玉、65馬、43と

41飛成、23玉、21龍、22飛、同龍、同玉、66馬、44と寄

やってることはほとんど前の作品と同じで、飛打飛合しながらの馬鋸なのだが、今度は馬がひとつ遠ざかるのに、飛打飛合が2回行われていることに気付いただろうか。この違いがどこから来るのかという話である。

と金のスリットの機構は前作から平行移動しただけだ。44→34→43→44で巡っている。変わっているのは飛打飛合の方で、この玉の移動が前作から逆回転になっているのだ。

どういうことかというと、馬のラインで見たときにと金のスリットがA→B→C→Aと移り変わるとすると、本作の玉はA→C→B→Aと動いているということだ。この玉にスリットから王手しようとすると、A玉→A馬→C玉→(C馬とはできない)→B玉→B馬→A玉→(A馬とはできない)→C玉→C馬→B玉→(B馬とはできない)→A玉→A馬という手順が必要になる。

このとき馬がA→B→C→Aと一巡してひとつ遠ざかるあいだに、玉はA→C→B→A→C→B→Aと2回転しているのだ。55の馬が66に移るのに必ず要する2手のあいだに馬は3回動き、飛打飛合は2度行われているので、これは「3段1手馬鋸」ということになる。

この、2つの回転趣向の片方を逆にすることでサイクルをふくらませる機構、現実世界の何かで喩えられそうなのだが、いまいち良いものが思いつかない。

東京駅から山手線に乗って、池袋、渋谷と経由して東京に戻る経路を考えたときに、内回りに乗れば東京→池袋→渋谷→東京の1周で済むところ、間違えて外回りに乗ってしまうと、東京→(渋谷を通過)→池袋→(東京を通過)→渋谷→(池袋を通過)→東京で2周かかるという話なのだが、うーん、もっといい喩えが無いものか。