書きかけのブログ

詰将棋について書くことがあれば書きます

第2回 詰将棋サイコロトーク いのてつさんの再帰連取り講座編

前回の続きです。


1995年12月 今村修 天月舞

まず何が大変かっていうと歩を全部消す意味付けを作るのが大変なんです。例えば25歩が消えたとして、普通の連取りだと25が消えたら収束に入れるはずなんですよ。香の利きが通るとか、桂が取れるとか。再帰連取りってそれじゃ満足できなくて25が35に行って収束じゃだめなんです。
余詰もはらんでますよね。1歩消費型でもない限り45歩でも収束できるので。
なので25歩が35、45、55と移動して、最後は消えた状態で収束に入らないといけないんです。あとは75まで呼び出した歩を剥がして元に戻すのが結構大変なのと、中合が残る変化を処理するのも大変なんですね。それを解決するのが14玉です。

65手目55飛と歩を取ったところ。ここで作意は65飛合だが、受方には96玉と逃げて64歩を盤上に残す選択肢がある。一見すると盤上に歩が残るのは受方有利にも思えるが、この変化を受方不利の早詰にしなければならない。

64歩が残ってると94飛合が逆王手にならないんだ。
これが発想の転換で当時は新しかったんですよ。
14王は64歩を残しておくと玉方にとって不利になる意味付けのためだったんだ。
この天月舞すごいところいろいろあるんですけど。まず双玉の発想がすごい。あと25歩を消し切るのもスマートに実現していて、75に残った状態で収束に入ろうとすると95に逃げられて75がブロックするんです。ここもエレガントに作ってるんですね。

収束で307手目26飛と桂を取ったところ。このあと作意は95玉、25飛と続くが、攻方が剥がしをさぼって5段目に歩を残しておくと、25飛が王手にならない。

なんでアルカナの方が楽かというと、天月舞は中合の歩が擬似的に移動していたけど、アルカナはと金が直接移動するんですね。だから中合の処理を考えなくていいし、と金でできるからたくさん置いて手数が伸びるのも利点です。


1999年8月 橋本孝治 アルカナ

さっきの課題を天月舞型で全部根性で解決したのが近藤真一さんです。双玉なんですけど攻方は金銀の代わりに使ってるだけで、中合が残ったときの変化とかの意味付けは逐次設定してやってます。


2004年7月 近藤真一

陽炎は何がポイントなんですか?


2013年2月 添川公司 陽炎

まずは単玉でやってるのが技術的にはポイントだし、飛車打ち飛車合の間に新世界っぽい飛車成の手順を入れることで手数をちょっと伸ばしてます。


1981年3月 森長宏明 新世界

陽炎は83飛にすぐに84飛合とせず94玉、93飛成、85玉、83龍としてから84飛合とする。この一度よろけて飛車を成らせて手数を稼ぐ手順が新世界っぽい。

構造的には一緒なんだ。
中合が残ったときどうしようとかには9筋はあんまり関係してないんですか。
細かく言えば関係してますが、それは別の理屈で作ってあります。
天月舞みたいに双玉で処理をしない場合は変化で必ず歩のある方に追わないといけないんですか。
実は別の意味付けもあるんですけど、それをやってる人はまだいないですね。
いのてつさんの最近の作品も変化処理は歩のある方に追っていくんですよね。
そうです。


2023年4月 井上徹也 静かの海

こういうのよく作るよなって思いますね。
4段目に歩が残ってるときは全部詰まさないといけないし、5段目に残ってると詰まないっていう変化を作らないといけないんです。
やりたくねー。
それをやりつつ収束も作らないといけない。結構大変なんです。
だいぶ大変でしょうね。あんまり空間使いたくないんですよね。なんでそんなところで変化作るの。めんどくさい。って思っちゃいますよね。
思っちゃう。
ばちばちに縛りたいんですよね。
長編の場合は空間で作らないと駒が足りなくなるので。
でも空間で変化をがんばらない再帰連取りのスマートな意味付けをいのてつさんは持ってるってことですか。
そうなんです。この前の詰工房で新ヶ江さんも同じことを言っていてびっくりしました。天月舞の意味付けは今はまだ双玉型と根性型しかないんですけど、考えたら他の意味付けもありそうな気がします。
新ヶ江さんが考えてるっていうのが意外でした。
長編趣向作のイメージもないし、そこに興味があったことすら意外でした。
逆算系の作品作ってるイメージでしたね。
新ヶ江さんは結構いろんなこと考えてます。

長編は作るの大変ですね。1作1作が重い。
検討が大変なんですよ。
自分からするとアイデア出しから別世界だなって感じなんですけど、アイデア出しと図化だと、それでもやっぱり図化の方が大変なんですか。
ものによりますね。
イデアだけなら、再帰趣向とか、できるかどうかは別として、発展させてみようって思ったときの選択肢はいろいろありそうな気がします。構想作がよくやる組み合わせでよければネタは困らなさそうかなって気はしました。
組み合わせだとあんまり現実感のないネタも多いですね。まあ、それでもやってみたらできる場合もあるんですけど。
馬鋸で再帰連取りも組み合わせっちゃ組み合わせじゃないですか。あれを思いつけるかは別としても。
言葉にするのは組み合わせでよければ出るかもしれないですね。
そんなにネタに困らなそうかなっていう印象はあります。作らないで言うのもあれですけど。でもその中には絶望的に難しいやつが混ざってたりするんだろうな。それこそ田島秀男が手掛けるものもありますしね。トリプル七種合だってネタ自体はなんてことない、なんてことないって言っちゃうとあれだけど、みんな言ってたって言う方が正しいかな。
言うだけなら誰でもできるってやつですね。
やっぱり手順にするのが大変ですね。
手順にするのと、手順ができたものを最後詰将棋にするのが大変です。手順にするのと詰将棋にするのどっちが難しいかはなんとも言えないところですね。

いのてつさんからすると800手超えのプロットはまだまだあるだろうって感じですか?
全然分からないです。手数でどうとか思ってないんで。
最近は超長手数はあんまり盛り上がってないですよね。
記録狙いはありますね。
最近すごいなと思ったのが吉田京平さんの連続捨て駒の記録作なんですけど、いのてつさんどうですか。
すごいのかどうかも分からなかったです。すごいっていうのは記録をぎりぎりのところで実現していてすごい?
よく作るなっていう。
それはそう。
記録作は、がんばったら作れるなっていうのが多いんですよ。過去にここまでできていて、そこにプラス1しましたっていう。あの連続捨て駒は、よくその記録を目指そうと思ったなっていうのもあるし、よく作るなあと思います。詰将棋としていいかは置いといてね。私が記録作好きなのは一歩一歩進んでる感じがいいなと。
詰将棋を前に進めた感じがする?
再帰趣向でもなんでもいいんですけど、何かのジャンルの歴史を振り返ったときにそこに入る作品に惹かれます。

久保さんはいつか煙詰1個は作っとこうと思ってるタイプじゃないんでしたっけ。
不純な動機としてはありますよ。作れることを証明しておいたほうがいいのかなみたいな。でもそのために煙詰のノウハウを学んでまでやりたいとは思わないですね。もっとみんなすごいの作ってるから。どうせ作るなら岡村孝雄さんみたいなのを作りたいんですよ。
岡村孝雄さんみたいな煙詰ってどういう意味ですか。
歴史に残る煙詰です。「七種合煙の中ではこれが一番いい」っていうのには興味がなくて、歴史上これが初めてですとか、そういうところに価値を感じますね。煙詰の最高峰はこれですっていうのが完璧に打ち立てられるなら作りたいですけど、そんなことはありえないので。大崎さんはどうなんですか。
馬屋原さん的な方で歴史に残らなくていいから1個作っておきたいなって思ってます。それと同じくらい800手も作ってみたいと思ってます。
どっちかっていうとそっちの方があるかな。800手となると何か新しいアイデアが必要だと思うんです。でもどうせ作るなら1525手超えたいですね。せっかくアイデア出してがんばって作っても800手じゃ歴史に残らないんで。
超長手数の歴史を語ったら、寿があり新扇詰がありメタ新世界がありミクロコスモスがあり、4作で語れちゃうじゃないですか。この中に入りたいんですよ。狙った結果800手なら仕方ないけど、どうせがんばって作るんならそこ狙いたいです。
いのてつさんは手数気にしてないってことは1525手超えたいっていう気持ちもそんなにないんですか。
記録を目指して作れるもんでもないと思ってるんで、新しい構造の長編を作っていくなかで、運が良ければものにできるんじゃないかなあと思ってます。冷静に考えて1500手って長いんですよ。

記録を目指して面白い趣向作が作れるイメージ無かったんですけど、幻日環が出てきて、そういう方法もありなんだなと思いました。
高い山を目指せば面白いものができるんでしょうね。
登るルートは違っても登るところは同じですか。