今日は酔鯨を読む会です。
「酔鯨」はまず表紙がいいんですよ。書名もいいし、色もいいし、フォントもいいです。
フォントは普通でしょう。
いま見たら「からくり箱」と一緒でした。
べた褒めですね。
つみき書店から出た新刊3冊と一緒に買ったんですけど、酔鯨は群を抜いてますね。
方向性が違くないですか。
橋本樹さんは当時としてはアクロバティックなことをしてますよ。
いまだと武島さんが洗練バージョンをやっちゃってるので印象としては辛いですけど、先達者ですよ。
時代背景も含めて読めばいいんですけど、いま手元で酔鯨と比べちゃうと。
芹田さんは現代の作家ですからね。
現代の作家なのにもう作品集出すんだとは思いました。まだまだ現役なのに。
それは思いました。第一弾ってことなんですかね。
若島さん上田さんみたいなことですか。
酔鯨読んでて気付いたことがあって、同じ段に玉と飛車と角置いたバッテリーの構図がちょくちょく出てくるんです。10番とか11番とか。
それは解いていて思いました。
芹田さんの手癖というか、ネタが無いときについつい置いちゃう配置なのかなとは思うんですけど、もしかしたらこの1冊の中でこの形から七種中合出してて、そういう趣向なのかもと思って調べちゃいました。違いましたけど。
まあ、好きな形なんでしょうね。私も何も思いつかないときはよくある打歩詰の構図並べて考えてます。
この構図は最高ですよ。角の使い道が無いところも最高で、段が限定されるのだけが欠点です。玉が斜め下に下がったらと金寄れるのもいいんですよ。
ありがち打歩詰構図は自分もよく使うんですけど、武島さんとか最近の森長さんとかは見たこともない打歩詰の構図で収束する作品出してて、よくそんなん思いつくなあって思ってます。
分かります。私も思ったことあります。
あれはよくある打歩詰構図で破綻したからひねり出したのか、はじめからこんな打歩詰もあるだろうと思って作ってるのか、どっちなんでしょうね。
さすがに前者だと思ってます。
武島さんに歩打ったあと馬捨てる作品があって、これいいなあと思ったんです。
私も武島さんの作品の打歩詰構図で1個よく覚えてるのがあって、この詰でパクりました。第三の選択も優秀な構図ですね。よくある打診の構図とは違ってて。
いのてつさんの短評が採用されてた27番も、飛角バッテリーで中合の作品でしたね。桂合珍しいなと思いましたけど、そんなことないですか?
桂合の珍しさよりは、見るべきは最後の3手じゃないですか?桂中合して角捨て同桂くらいは原田清実さんとかにありそうですよ。
桂合が珍しいっていう意識は無かったです。
逆に桂合ならこの収束になる感じはしません?
普通に作ったら35金までとか24金までとかになりそうだけど、飛車まで捨ててるのに新鮮味を感じました。具体例出せないですけど、短コン全部見ていったら原田さんが桂合出してますよきっと。
35番はどうですか。何年か振りに詰工房行ったときに、二次会で芹田さんに「なんでこれが看寿賞じゃないんだ」って話をされて、自分の芹田さんの第一印象はそれなんです。
それは多くの人が持ってる印象かもしれないです。
でもその気持ちも分かるなあとも思って、看寿賞でよかったんじゃないのと。
35番はこれ単体で見るとめちゃくちゃいい作品なんですけど、後半11手がまったく同じ作品があるんですよね。それをどこまで評価するかって結構難しくて。
1980年5月 柳原裕司
あの飲み会で「看寿賞は前例に厳しい」と刷り込まれたので、去年の馬方さんの作品が前例あるのに受賞したのは意外でした。
馬方作とボンバーマンは構図が違いますからね。でも35番は同じ構図の前例があったとしてもいい作品ですよ。この年は何が取ったんでしたっけ。
該当なしです。
該当なしにするくらいなら、とは思うなあ。
中編が芹田さんです。
自分の好きな作品が取れないのに、他の作品がもらえるっていうのは、何も取れないよりある種辛いですよ。
蟻銀と同じ年の話だったんですね。この年短編を取り逃して、数年後蟻銀で雪辱を果たしたのかと勝手に思い込んでました。同時だったんだ。芹田さん充実した年ですね。長編賞はいのてつさんですか。
一緒に名古屋大会に参加した記憶があります。35番は會場さんが論考で取り上げてますけど、會場さんの文章はさすがですね。
自分は違和感なく読んじゃってました。會場さんのレトリックもありますね。
こう書いた方が一般の人には分かりやすいのかもしれないけど、それは會場さんの職業病出ちゃってますね。全体としては芹田さんの良さを分かりやすく伝えてくれるいい文章です。「いい作品だけどこれはある筋だから」のあたりとか。物語を描こうとしがちな最近の作家に対する芹田さん像が描かれていて、すごくいいです。
色々な評価軸があっていいですからね。
ただ、どの作品もいいんだけど、作風がホームラン狙いじゃないから、とにかくこの1作を見てくださいという紹介にはなりづらいですね。
イチロー的な?
この中から1作選ぶなら80番を選びます。
私も1作選ぶなら80番です。これは芹田作品の真髄ですよ。って、論考に書きましたね。これ書き終わるまで論考だと知らなくて普通に手順の解説書いちゃいました。これがあったらこの筋のミニ趣向はもう作れないですね。こういうのが好きなんです。看寿賞というテイストの作品ではないですけど、ちなみにこの年の看寿賞は何だったんでしょう。
私の歩の連続中合です。
あれはめちゃめちゃいい作品なので仕方ないですね。
論考で取り上げられた作品と受賞作以外では54番と89番が好みです。変化紛れのバランスがちょうど良くて、初形も良くて、収束も綺麗に決まるっていうのが芹田さんの特徴をよく表しているなと思って。
いのてつさんが54番好きなの意外です。
盲点に入って解くのに苦労したっていうのもあります。
私は長い方が好きです。芹田さんの逆算の特徴は、既に置いてある駒をいかに有効活用するかだと思っていて、そこが他の逆算作家と違うところですけど、長い作品になればなるほど有効活用の度合いが高まってると思うんですよね。ひとつの駒が複数の働きを持っていくので。
自分は90番が好きでした。
90番も特に色が強いですね。この詰め上がりの無駄の無さはなかなかやばいです。ここからこの序が入るとは思わない。
画家YouTuberの柴崎さん分かります?
分かりますよ。
筆なしでスイスイ描く / かんたんで楽しいアクリル画
— Watercolor by Shibasaki🎨柴崎春通 (@shibasaki_art) 2023年4月9日
絵筆を使わずにお絵描きしてみたいと思います。どんな仕上がりになるかお楽しみくださいね。
YouTube: Watercolor by Shibasaki https://t.co/kbKgT9LGEx pic.twitter.com/eGxtzJkeoi
芹田さんもこんな感じだなと思ってて①この収束ユニットを逆算してみましょう②24に利かせたら角合が出ますね③46角を置いたら香打も限定されて味がいいです④90番完成、みたいな。
言ってる意味は分かりますけど、そこまでの共通項があるかというと。
この収束ユニットから、角合は自分も思いつくかもしれないけど、その後90番にはならないんですよ。
これは芹田さんじゃないとできませんよ。
現代作家の多くは、手を先に考えて、この手を入れたいと思って逆算してると思うんです。芹田さんは入らない手を追いかけないというか、いまある駒で頑張れる範囲をとにかく突き詰めてますね。
私はこんな手が入ったら面白いなと思ったら、すぐそっちいっちゃうんですけど、芹田さんは配置が最優先、駒を増やさないことが最優先で、その中で一番を目指してる印象です。
鈴川さんなんかは逆算する中で、広げながら狙いをひねり出していきますもんね。
駒は増えるけど、手順も膨らんでいくよっていう逆算ですね。
だから芹田さんの作品にはもどかしいところもあって、どうしても技術的な評価になっちゃうんですよ。駒が1枚減ったり駒効率が上がったりして喜ぶのは作家なんで。
え、でも解答者受けもいいんじゃないですか?
収束決まりますからね。ただ、最近は多少駒が多くても、1局を支える1手や全体を通してのストーリーが重視される傾向にありますよね。蟻銀はそこがうまく噛み合った作品ですけど、蟻銀が芹田さんの真髄という感じもしないです。
この作品集後半が特に濃密なんで、久保さんが長い方が好きというのも分かります。作品集2冊出す予定なら、1冊目は上田さんの極光みたいに50局でもよかったのかもしれないです。
他の人の作品集読んでて「100局じゃなくてもよかった」なんて言わないですよ。
芹田さんの最高レベルが高いから期待しちゃうってことですね。
これが作れる作者なんだから、これを100局揃えてほしいとは思っちゃいますね。
現役作家だからもう何年かしたら揃いますよ。そういう意味では次回作に期待ですか。
最初のべた褒めから打って変わりましたね。
一番嬉しくない短評ですよ。次回作に期待。
「酔鯨」は出色の作品集です。次回作にも期待ということで。