森田手筋とは、合駒を発生させたあとに、その王手駒を消せば、合駒が自由に動けるようになって、それが取歩駒に使えるという手筋だ。
そこで攻方が王手駒を消しにかかるのと同じように、対抗して受方も合駒を消しにかかれば、森田手筋を回避することができるはずである。実際に作例もある。
2015年3月 第12回詰将棋解答選手権 武島広秋氏作
46銀、44玉、45銀、同玉、37桂、44玉、46飛、同桂、 43桂成、54玉、55歩、43玉、65角、54桂、34銀、44玉、 45銀、43玉、54銀、44玉、45銀、55玉、56歩、65玉、 57桂、同馬、66歩、同馬、74銀、 まで29手詰
この作品では合駒を消すのに玉の移動(いわゆる不利逃避)を使っているが、合駒自身の移動を使うという手段もありえる。それが7月号のデパートで発表された2題。
2016年7月 デパート 久保紀貴氏・井上徹也氏合作
74飛成、54角、35金、同玉、75龍、65角、26金、44玉、 64龍、54角、55龍、同銀、45歩、同角、43銀成、 まで15手詰
2016年7月 デパート 武島広秋氏作
56銀、46玉、47銀引、45玉、27角、同馬、15飛成、35角、 56銀、46玉、16龍、26角、同龍、同馬、47銀引、45玉、 54角、同桂、46歩、同桂、56銀、 まで21手詰
この構想を図化する際、収束は2パターンが考えられる。別の取歩駒を用意するか、逃げた取歩駒を元に戻すか。もちろん当初の打歩詰と全く関係ない別の収束を用意することもできるけど、そんなことをする作家はなかなかいないだろう。
別の取歩駒を用意するのは比較的簡単だ。合駒を取って、その駒を捨てて別の取歩駒を引っ張ってくればよい。角を捨てて桂を引っ張ってくるのは不利逃避の一号局でも使われているセオリーで、この構図でまとめた武島さんの作品は一号局らしくシンプルだが序奏の味付けが上手い。合駒で出す角を先に捨てるあたり自分も好きな作り方だ。
一方、移動合で逃げた取歩駒を再び元の位置に戻すのは少し難しいが、こちらを採用すると移動合を紐なし中合にしやすいというメリットもある(取ったら取歩駒が無くなるので、紐があってもなくても取れないからだ)。森田回避から再度の森田手筋に持ち込んだのは、さすが久保さんというところである。
さて、森田回避の収束には2パターンあるわけだが、冒頭に紹介した不利逃避バージョンの森田回避は別の取歩駒を用意するものだった。では「取歩駒を合駒で発生させたら、それを玉方が不利逃避して取らせにかかったけど、取らず手筋でやり過ごしてやっぱり取歩駒として使う」というパターンもきっと作れるだろう。
そう思って作ってみたのがこちらの作品。と言って図が用意できたらよかったのだが、あいにくまだ無い。