書きかけのブログ

詰将棋について書くことがあれば書きます

7手短コン傾向と対策(2)

kakikake.hateblo.jp

7手コンでは中合を動かせば上位を狙えるというのが前回の結論だが、念のため前々回の7手コンも見ておこう。2009年の短編コンクールだ。

2009年12月 山崎泰史氏作 短コン1位

52馬、55飛、36銀、同玉、25馬、同飛、37角成、
まで7手詰

やはり優勝作は中合動かし。 3手目34馬と緩みそうなところ36銀と捨てるのが上手い。 7手コンで中合を動かすときは3手目が大事という話の証左だ。

2009年12月 原田清実氏作 短コン2位

24銀、45金、14角、34玉、44金、同金、25角、
まで7手詰

首位作と似た構図から同じように開き王手で中合。 こちらは金合だ。飛合は取って早い。 3手目も一応捨て駒だが作意では取られない。 2012年の作品も3手目取られない捨て駒だったのは偶然だろうか。

2009年12月 金子清志氏作 短コン3位

21香成、48玉、47金、同桂不成、39角、同桂成、37龍、
まで7手詰

中合を出さずに3位入賞。 記憶に残るのはむしろこういう作品ではないかと思う。

2009年12月 中筋俊裕氏作 短コン4位

26香、25銀、23飛、34玉、14飛、同銀、24飛成、
まで7手詰

合駒が動くが中合ではない。 2手目を角の移動合とした誤解が多かったようだ。 誤解はA評価の3点として計上されるので、誤解を増やすのも上位を狙う手のひとつ。 本作は誤解16。2位の原田作は誤解21。

2009年12月 武紀之氏作 短コン5位

16角、25銀、34角、同銀、42銀成、同香、23龍、
まで7手詰

本作は他と違い2手目の中合を王手ライン上で動かしている。 この仕組みを使うと5手で動かせるので、7手は少し珍しいかもしれない。

2009年で中合を動かしたのはここまで。たった3作しかなかった。 2012年は6作。今年は何作集まるだろう。

双玉の正しい使い方なんてのは自分で決めるんだ

えび研の話題からまたひとつ。

私は割りと安易に攻方王を置く作家だ。パラ10月号に載った作品は2作とも双玉だった。 形が綺麗になるなら逆王手が無くても積極的に双玉を視野に入れてつくるのが最近のトレンドではないかと勝手に思っている。

えび研でも馬屋原さんは双玉容認派だった双玉作を手掛ける作家だった。しかし久保さんと鈴川さんはほとんど攻方王を置かないらしい。 そこでお二人に見せていただいた珍しい双玉作品を紹介したい。なぜか二人とも実戦型だ。

makugaeru.blog46.fc2.com

2012年9月 高4 鈴川優希氏作

71角成、23玉、24香、32玉、34龍、41玉、43香、42歩、
同香成、同玉、43歩、41玉、31龍、同玉、53馬、32玉、
42馬、
まで17手詰

枠の外に飛び出す初手が狙いの一手。(解説で体言止め多用しがちというのも、えび研で出た詰将棋あるあるのひとつ)

意味付けは簡単で、4手目12玉と奥に逃げられたときに62龍で詰ませたいので、邪魔にならないところまで避けている。 初手53角成では54歩と中合されてやはり龍が2段目に突っ込めない。

馬のそっぽ移動のあとも歩の限定合(桂合が早く詰むのが当たり前とはいえ上手い)から龍も捨てて、信頼の鈴川印である。そっぽに行った馬がちゃんと帰ってくるのもいい。

双玉の理由は11手目44龍が強力すぎるということらしい。

角合が逆王手で逃れの図

7筋に駒を置けば双玉を使わなくても逃れにできるが、狙いが7筋へのそっぽなので6筋より外に駒を置きたくないのだそうだ。

まったく理解できる。

しかし作者は後にブログで攻方王を消した「改良図」を発表している。

makugaeru.blog46.fc2.com

2014年8月 改良図

双玉容認派の私の好みは当然発表図の方だ。

続いて久保さんの双玉。

2008年3月 デパ3 久保紀貴氏作

27香、24桂、23歩、32玉、43馬、31玉、22歩成、同玉、
24香、23桂、同香成、31玉、53馬、42銀、43桂、41玉、
63馬、52銀、53桂、同銀左、31桂成、同玉、53馬、同銀、
32銀、42玉、43と、51玉、41銀成、同玉、32成香、51玉、
42と、同銀、62桂成、
まで35手詰

配置がとっ散らかっているが、駆け出しの頃の作品なので大目に見てほしい。 と、勝手な想像で作者の言葉を代弁してしまうが、きっといまの久保さんなら28歩なんて置かないだろう。

作意は桂中合から、馬を寄せる6手を挟んで再度の桂捨合と、桂馬の時間差連続合。

この2度目の桂合が香に対する成生打診になっているのは、作者の後の活躍の片鱗であろう。 このあとも銀の限定合から馬を消して綺麗な収束。双玉の理由は最後の最後32手目。

作意はここで42とから62桂成で詰みだが、71王が例えば72とでは62桂成から42とという手順前後を超えた余詰が成立してしまう。

結果稿には作者の「双玉の必然性はなく」というコメントが紹介され、担当の岡村さんも「一寸笑える収束だ」と書いている。

本作発表から7年半後。えび研で久保さんの新しい双玉作を見せてもらったが、そちらは逆王手含みで双玉ならではの佳作に仕上がっていたので発表をお楽しみに。

図面用紙オレンジ&ブルー

えび研で気付いたのですが、将棋連盟の図面用紙には2種類あるようです。

ひとつは楽天でも買える図面用紙。 (別にアフィリエイトとかじゃないので、このリンクから買っても何もなりません)

item.rakuten.co.jp

http://thumbnail.image.rakuten.co.jp/@0_mall/shogi/cabinet/ikou_20100324/img10013935919.jpg

よく知られた表紙がオレンジの図面用紙です。

もうひとつはえび研に久保さんが持ってきていた表紙が青い図面用紙。

http://www.shogi.or.jp/kansai/shop/goods/img/zumen.jpg

これは久保さんが特注した、わけではなくて、関西将棋会館で買えるらしいです。 表紙以外に違いは無いのでだからなんだという話なんですが、ネットで買えない分、青の方がレアかもしれません。

私の創作法

このツイートを見て、自分なりの解釈で「打診逃避」をつくろうと思い立った。

打診中合とは可成域にある大駒を中合によって不可成域に引っ張りだして成生を確定させる手だ。 それを逃避で行う。 まずは仮想作意として55玉に対して73角、66玉、84角成(成生の確定)、55玉、73馬という手順を考えた。

当然73馬には再度66玉と逃げる手があるはずで、これに84馬としていては千日手。 繰り返しを避けるために84に玉方の駒を置くことにした。 作家目線では安直だが、解答者目線ではわざわざ駒を取らせる不利逃避にもなるのでおいしい。

適当に駒を並べれば、なんとなくこんな感じだ。

ここから手順が成立して駒余りにならない配置を見つける。

43角、36玉、54角成、25玉、43馬、34桂、同馬、15玉、
14と、同香、25馬、同玉、37桂、15玉、16歩、同玉、
14飛、15歩、18香、17香、28桂、
まで21手詰

素材から原理図になったくらい。11手目25馬と捨てるところで、24馬から25馬とするほとんど余詰があるが、原理図なので気にしない。

この頃は2手目34桂合の割り切りを同角、24玉に23角成で行っているので23を抑える必要があった。 もともと2手目15玉のために14を抑える必要もあるので、駒効率的にここは13金が最適だろうと思っていた。

この図の気に食わないのは収束の緩みではなく、そもそも16歩の打歩詰がテーマなのに打開もせず、全く関係のない手順で詰むことである。

そこで打開させたのが次の図。

73角、66玉、84角成、55玉、73馬、64桂、同馬、45玉、
44と、35玉、47桂、同銀不成、34と、45玉、37桂、同龍、
46歩、同龍、54馬、
まで19手詰

さすがに右辺の駒が多いし、双玉にするほどの構想とも思えない。この図も余詰があるが修正するまでもなく没。

他によい配置が無いか考えていたら、はじめの図の全体を一段下げると打診中合と打診逃避の選択ができることに気付いた。

53角に44桂(48歩があって歩は打てない)と打診中合すれば作意同様だが、37玉、64角成、26玉と打診逃避すれば2手稼げるのだ。少し面白い(まあ、44桂は同角生でも詰んでしまうのだけど)。収束はあいかわらずパッとしないが、余詰は消えている。

ここで2手目35桂合の変化が24角ではなく13角成で詰みになっていることに気付く。13に質駒があれば、実は24を抑える必要は無いのではないか。24を抑えなくてよいなら、15を抑える駒は金である必要は無い。たとえば27桂。

この図は全然詰まないが、こういうイメージだ。

ところで今までの図は必ず持駒3枚を持って収束に入っていた。64桂、35桂合、初形の持ち歩。 駒が増えれば増えるほど収束が長引くのは自明で、特に桂や歩では切れ味も悪くなる。

そこで35桂合を歩合に変えて持ち歩を消す作戦に出た。 桂合限定は二歩禁で簡単だが、歩合限定をどうするかというと四桂配置である。

53角、37玉、64角成、26玉、53馬、35歩、同馬、16玉、
28桂、同龍、17歩、同龍、25馬、
まで13手詰

没にした図から桂捨てで取歩駒の龍を引き寄せる手順はもってきた。 2手目44歩、同角生、35歩は2手変長だが、44歩は無駄合と判断。

逆算は安直に44銀邪魔駒消去でよいだろう。いきなり銀を置くと詰まなくなってしまうので、角も盤上に置いて下図。

35銀、17玉、26銀、同玉、53角不成、37玉、64角成、26玉、
53馬、35歩、同馬、16玉、28桂、同龍、17歩、同龍、
25馬、
まで17手詰

17香は持ち歩にもできるが、19手で中編になってしまう。中身が軽いのでできれば短編で収めたいところだ。 (17が香なのは歩無し図式にするため)いったんはこれを完成図とした。

ところが直後の詰工房で石黒さんに見せたところ、短大手数なら即採用(在庫難)と言われてしまう。 採用が確約されてしまっては、開き直って短大手数でまとめるしかないだろう。

短大手数にするには17香を持ち歩にする必要があるが、その歩は見るからに合駒で出せそうな歩だ。なにせ桂は品切れている。せっかくなのでさらに逆算したい。

例えばこうして

34馬、25歩、同馬、17玉、26馬、同玉。もちろん15角成で潰れているが。

意外とこの逆算が難しく、例えば35馬を12角にしても初手から15飛、26玉、35銀、37玉、64角成、47玉、46馬で詰む。

何がいけないかというと、38に利かせたいだけの49銀が58まで抑えてしまっているのだ。

そこで再び全体を一段上げることにした。

そしてこの構図ならさっきの捨合が入る。

ところがこの図には問題があり、それは43角、36玉、54角成に45歩とする手が成立している。つまり後で43馬に34歩、同馬とするのも、先に54馬に45歩、同馬から34馬とさせるのも同じ。非限定というわけだ。

仕方ないので歩無し図式を諦めて41歩を置くことにしたが、捨合まで逆算したところ、この歩が初手の角の打ち場所を限定させていることに気付いた。

2015年7月 短4 自作

万事うまくいったと思い、これを発表図としたが、うまい話には裏があるもので、2手目の合駒が銀合非限定とは気付かなかった。銀合を消す方が難しいので、捨合で得た歩を16に打つ繰り返しの味は無くなってしまうものの、21歩を置いて修正図としたい。

作意を銀合にすると(歩合と違って)香合や金合を読み飛ばせなくなるので、出題図としても優りそうだ。

33角、24銀、同角成、16玉、25馬、同玉、34銀不成、15玉、
16銀、同玉、25銀、同玉、43角不成、36玉、54角成、25玉、
43馬、34歩、同馬、15玉、27桂、同龍、16歩、同龍、
24馬、
まで25手詰

創作のきっかけになったイキロンさんに見せたところ「38金が残るのが気に食わない」とのこと。厳しい。

迷宮の王にお言葉ですが

えび研の話題から1作紹介したい。

大橋健司氏作 平成3年度看寿賞中編賞「迷宮の王」

26龍、55玉、46馬、66玉、57馬、55玉、67桂、同と、
46馬、66玉、47馬、55玉、46馬、66玉、57馬、55玉、
66龍、45玉、36龍、44玉、45歩、55玉、46馬、66玉、
47馬、55玉、44銀、同と、46馬、66玉、57馬、55玉、
66龍、45玉、36龍、55玉、46馬、66玉、45馬、
まで39手詰

手順の解説は借り猫さんのブログが詳しい。

端折って書いてしまえば、66玉に対して46馬を45馬と開けば詰む形なので攻方は45香消去を目指すが、 そのためには44銀捨てで44を塞ぐ必要があり、さらに44銀を打つ足がかりに事前に45に龍を利かせる必要があって、 龍を1路近づけるのには1歩が必要なので、まずは67桂捨てで67を塞いで47歩を取ることから始まる。といった感じ。

45の邪魔駒を消すために(44銀を打つために)45に歩を打つという手順構成が面白いが、初形で置いてある45香。 これは歩ではいけないのか、というのがひとつめの話題だ。

手元の柿木で調べた限りでは45歩にしても作意成立。ありえるとしたら何かの変化が変同になっているとかだが、ちょっと思いつかない。 45はなぜ香なのだろう。

ふたつめの話題は序の6手。これは必要なのか。

68に置ける馬をわざわざ79に離したり、取られるだけの55香を置いたりしているので、頭の2手は変化増やしの逆算と予想する(まさか初手48桂、同歩成の紛れで47歩に働きをもたせたわけではないだろう)が、 しかし28龍を26龍とする手はテーマにまったく関係なく、詰め上がりまで一貫したテーマを持つ本作には、およそ似つかわしい逆算とは思えない。 36龍といけるところを、26龍とそっぽに行くくらいの手でない限り、頭の2手は削除したい(ついでに馬も近づけたい)。

と私は思うのである。

これじゃだめなのかなの図

壁にならない取らせ合駒

いまさら4ヶ月も前のツイートを引き合いに出す。

取らせ合駒は一号局の打歩誘致以外にも、二歩禁回避や遮断防止があるというお話。 二歩禁の作例はちょうど最近見たような見なかったような。

というわけでこちらの記事。

katsuaki3r0429.hatenablog.com

打歩誘致、二歩禁以外で香の取らせ合駒をやってみようというお話。それを受けて(?)三輪さんがつくったのが次の図。

59香、57香、同銀、67玉、56銀、68玉、57角、59玉、
49金、同玉、39飛、58玉、59香、69玉、79馬、
まで15手詰

2手目58香は57銀、67玉、68銀で58に逃げられない。 取らせないとあとで退路を封鎖して邪魔駒になるという、これはこれで新しい意味付けかな。

ツメガエルさんが本当に取らせ合駒は面白いのか、という提言のために試作したのが次の図。

ツイートの概要が見づらくて困る。

49角、27角、同銀、17玉、26角、同桂、同銀、同と、
19龍、18歩、29桂、
まで11手詰

2手目38角は、27銀、17玉、18龍まで。

個人的には遮断防止でも十分面白いと思いつつ、双玉にすれば7手でつくれることに気付いたのでつくったのが次の図。

39香、37香、同銀、47玉、48香、同桂成、57金、
まで7手詰

2手目38香は37銀、47玉、57金まで。

せっかく7手ができたのに、盤上の駒数が11枚なので、残念ながら短コンには出せないのである。


取らせ合駒とは全く関係ないですが、ツイートの概要が見づらいのは直しました。

高木手筋と青木手筋

1955年3月 高木秀次氏作(不完全)

初手から65龍、同玉、66金、54玉、98馬とした局面が問題。

詳しい話はこの詰2010や若島さんのブログを参照してほしいが、ざっくり言ってしまえば、ここで玉方は歩ではなく金を渡せば打歩詰に誘致できる状態になっている。

ところが持駒に金は無い。そこで盤上の96金を87金と移動中合するのがいわゆる高木手筋。

同馬と取ると、45玉(、78馬、同歩成)で金を渡されてしまう攻方は、これを取らずにひねって65金、45玉、89馬としてみるが、これにも78金!と移動合で応じる手があり、どうしても金を取らされてしまう。

もう少しわかりやすい若島さんのサンプルが下記。

玉方は角を合駒したいのに角が品切れになっている。そこで31角には53馬!と応じ、84金、66玉、22角成に44馬!を用意するのがまさに高木手筋である。

いずれの作品も後で特定の合駒を打ちたいのにそれが品切れで打てないので、盤上の駒を活用していくところが肝だ。

しかし後で合駒が打てないというのは、何も品切れだけが理由ではない。

8段目に桂は打てないという意味付けを利用しているのが次の作品。 (この時期、詰将棋に全く触れていなかったので、この論理の初出がどの作品かは不明)

2013年7月 中5 宮原航氏作

88馬、77桂成、同馬、66桂、65馬、46玉、58桂、同桂成、
55馬上、同飛、36金、
まで11手詰

ここからさらにひねってきたのが青木さん。

2015年3月 中13 青木裕一氏作

73香成、77銀、同馬、53玉、62銀、52玉、53歩、41玉、
51銀成、同玉、52銀、
まで11手詰

本作は成駒は打てない(当たり前)という意味付けを利用している。

つまり86に成銀を合駒できれば詰まないので、前段で77銀と中合して97馬に86銀成を用意しているというわけだ。

ここまでくると盤上の駒を活用して移動中合する高木作から大きく外れだしており、(先のツイートでイキロンさんも言及しているが)これも高木手筋と呼んでいいのかは怪しくなってきている。

これでやっと本題に入れる。10月号のデパート解説。

2015年7月 デパ3 青木裕一氏作

35金、56歩、17歩、同玉、18歩、16玉、56飛、46桂、
同飛、同馬、17歩、同玉、29桂、16玉、17歩、15玉、
25金、
まで17手詰

オリジナルの高木作では、平行な二つのラインのいずれかで合駒が1枚取れることは保証されていて、その合駒が発生するラインの差分が強調される作りになっている。

これはどうだろう。オリジナルの高木作でも合駒をどっちのラインで取るかはたいした問題ではないと個人的には感じている。 (青木作も合駒は一応どちらのラインでも取れる。後で取る手を作意にすると、先に取って捨てる手がめちゃくちゃ消しづらい非限定になるので、先に取る手を作意に設定する方が創作は楽だろうけど)

とはいえ結論は同じで、やっぱり青木作は新構想だと思う。

要するに、これは「成駒を合駒するため、あらかじめ盤上に発生させておく」という青木氏オリジナルの構想といって差し支えないのではないか。


10月4日追記。