書きかけのブログ

詰将棋について書くことがあれば書きます

迷宮の王にお言葉ですが(2)

「大崎くんが大橋さんに聞きたいことがあるらしいよ」と角さんが言って大橋さんと語る場が開かれた。そこで聞いた話。

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大橋健司氏作 平成3年度看寿賞中編賞「迷宮の王」

まず聞きたかったのは、初手が必要なのかということ。 その後の手順と比べると異質な初手は、いまの作家なら大半が省くのではないかと自分は思っているが、当時の大橋さんは初手58龍の紛れを入れたかったのだそうだ。

なるほど、まあ、入れたかったのなら仕方ない。仕方ないというか理解できる。入れたい手は入れるのが作家だ。 ただ、いずれ作品集を出すときは図を変えるかもしれないともおっしゃっていたので、やはり時代に応じた価値観の変化はあるのだろう。

もうひとつ聞きたかったのは歩でもよいはずの45がなぜ香なのかということ。

それの答えは面白かった。完成図を得たときに45には香がいた。それは創作や推敲の中で、ある瞬間には香でないといけなかったのだ。そして完成に至った。そのときに改めて45の駒を歩に変えて、再度頭から検討し直すだろうか。

これも柿木将棋のある現代なら別の話だが、やはり当時では大きなリスクだったに違いない。 (とはいえ投稿直前に魔が差して浅い検討で駒配置を変えることは、いまの作家でもよくやるミスで、そういう図はだいたい潰れている)

ところで「迷宮の王」の初手については久保さんの指摘がとても良かったので、それもついでに取り上げたい。初手を開き王手にする案だ。

初手45香の一間上がり。45だと後で邪魔になるが、45に上がるしかないのだ。43香も初手香成の防ぎに役立っており味がいい。さすが平成生まれ。

詰将棋解答選手権2016参加記

半期賞予想をしてる途中で早くも詰パラ4月号が届き、結果を知ってしまった。 大方予想通りだったけど、唯一外れたのは自作が半期賞じゃなかったことくらいだ。おかしいな半期賞だと思ったんだけど。


昨日、解答選手権に参加してきた。参加と言っても選手でも運営でもないので、ただの打ち上げメンバーだ。 エンジョイ勢も多い全国大会に比べて、解答選手権の打ち上げはガチ勢が揃っているなという印象だった。

一方自分はというと馬屋原さんとデパートの在庫をほとんど空にしたり、6月号で出題予定の知恵の輪作品をもらったり。 会場になぜか若い女性が2人もいたので聞いたら、女流棋士と女流アマ名人とのことらしく、寡聞にして存じあげず申し訳なかった。

打ち上げで出題された、次号の将棋世界に載る若島さんの作品が大問題。 伊藤果さんや行方さん、竹中さん含めみんなでよってたかって1時間くらい考えたのに、それでも解けなかった。 結局最後は竹中さんが詰ませたものの、難易度設定はたしか「10分で初段」とかそんな感じだったので、ぜひ来月の将棋世界で確認してほしい。

二次会を経て、伊藤果さん、若島さん、馬屋原さん、會場さんで三次会。午前2時まで詰将棋について語り、解散。馬屋原さんは今日無事に出社できたのだろうか。

ちなみに作品集のタイトルが読者に対して挑戦的であることは作者も自覚しており、それについてはあとがきでわけを説明しているそうなので、こちらも確認されたい。


解答選手権への応募は2作送っていずれも不採用。うち1作は難しすぎて、相馬作と並ぶと(時間配分の)バランスがとれないので最後に落ちたらしい。 来年は並んだときに逆に相馬作を落とすくらいの作品でまた挑戦したい。

自分の好みは⑩。じゃ当たり前すぎるので③。 肝心の初手の紛れが、解答選手権では読んでもらえないのが惜しいけど、若島さん曰く(解答選手権の場でも、紛れ筋と分かっていても)紛れを読むのは作品に対する礼儀とのこと。

2015年下半期賞予想 高等学校

高校は2.79が期末で2題。

2015年11月 高21 谷口均氏作

48銀、同玉、59角、58玉、68飛、47玉、49飛、同銀不成、
39桂、57玉、46銀、同玉、48飛、37玉、18飛、
まで15手詰

とどめ駒の59角をはじめに打つあたり丁寧な逆算。

2015年11月 高25 有吉弘敏氏作

45角成、66玉、76金、57玉、56馬、同玉、58香、同金、
55飛、同玉、57香、同金、56香、同玉、34馬、同飛、
66金打、
まで17手詰

気付きづらい初手から収束のたたみ込みまで。評価が高いのもうなずける。

しかし半期賞は次の作品と予想。

2015年8月 高7 片山知氏作

23銀、同飛、13歩、同飛、32飛、22銀、同飛成、同玉、
32と、同角、31銀、23玉、33馬、同玉、34金、
まで15手詰

つけいる隙のない完成度の高さ。初手に捨てた銀が、あとで合駒で戻ってくる構成。本当に初入選?

これ以外に良かった作品も挙げておこう。

2015年10月 高18 青木裕一氏作

46金、26玉、53角成、44歩、35角、16玉、28桂、同と、
17歩、25玉、52馬、34歩、14銀不成、同玉、41馬、同飛、
24金、
まで17手詰

作者の言葉には「打診?何ですかそれ?」とあるが、44歩中合は成駒に打診中合したと錯覚してしまう一手だ。 (実際には馬を近付けて52馬の合駒稼ぎを防ぐ手かな?)

2015年10月 高19 斎藤光寿氏作

47角、96玉、97歩、同玉、25角、96玉、97歩、95玉、
69角、94玉、95飛、同玉、96歩、94玉、95歩、同玉、
97飛、
まで17手詰

打歩詰回避のために飛車の横利きを止めるのを2回繰り返す。しかも角で。ダイナミックに。 収束を69角からにしたのも非常に上手いが、この形で47桂合を見落としたのは不思議だ。 43歩は61角成の防ぎであるとともに、47歩合の防ぎでもあるので、作者も47中合は読んでいたはず。

ところで手元のデパートの投稿用紙ではサイトウのサイは「齋」になっているが、本誌では簡略化されてしまうのだろうか。

2015年下半期賞予想 中学校

2015年7月 中21 千葉豊幸氏作

23角、同龍、57桂、46玉、47銀、同と、24角、同龍、
58桂、同と、37飛成、
まで11手詰

この作品が前期の最高点2.85。 自分も結果稿を見た瞬間に面白いと思ったので、半期賞と予想する。

遠くから打てる角を、あえて一路近づけた限定打2回で玉方龍を1マスずつ運ぶ手順のユーモラスさ。 担当が「高評価を得る作品とも思えなかった」と書いたことには驚いた。

2015年下半期賞予想 小学校

前期の小学校で2.7を超えたのは5手詰の作品2つだけ。

2015年9月 小15 鈴川優希氏作

34馬、43飛、73桂成、同飛、61馬、
まで5手詰

2015年9月 小14 石川英樹氏作

55香、62玉、66香、同馬、26馬、
まで5手詰

鈴川作が2.74で、石川作が2.73。

奇しくもこの2作は3手5手特集(と担当が書いたわけではないが)の号で同時に出題された。 7手と並ぶと5手はどうしても見劣りするので、そういった形で出題された方が点数も伸びやすいのかもしれない。

しかし鈴川作には90度回転させた岡村作が、佐藤作にはほとんど同じ5手の先行作があり、それで半期賞というのも個人的には違和感がある。

見返すと小学校は豊作だったように思う。

2015年7月 小3 武島広秋氏作

69角、24玉、28龍、同馬、44龍、同銀、34銀成、
まで7手詰

邪魔にならないところに遠開き。何よりその後の大駒捨てが手馴れている。2.48。

2015年8月 小7 深和敬斗氏作

47銀、同桂成、37銀、同成桂、27銀、同成桂、47銀、
まで7手詰

初手27銀は同桂生が逆王手。そこで47銀から遠回りして27成桂を実現する。これもある意味「成らせ」だろうか。2.40。

2015年10月 小16 久保紀貴氏作

39角、55玉、45飛、
まで3手詰

なんとなく左上に飛び出したくなるところ。17角を狙っての39角は気付かない。2.41。

2015年11月 小21 青木裕一氏作

54馬、26玉、35龍、同玉、36金、
まで5手詰

どうやっても逃げられそうなところ、馬そっぽでぴったりつかまっている。盲点に入ったのは実は3手目かもしれない。2.56。

いい加減引用しすぎだが、いい作品だらけなので仕方ない。

2015年11月 小22 武島広秋氏作

49飛、56玉、45角、同龍、66馬、
まで5手詰

この手の飛車の遠開きはよく見る筋ではあるが、この駒数と手数でまとめて、角の短打も入れたところに価値がある。 歴史に残すために本作が半期賞でどうだろう。2.53。

2015年11月 小25 柳原裕司氏作

39香、24玉、27龍、14玉、47角、同龍、32馬、
まで7手詰

邪魔にならないという点で小3武島作の遠開きと通ずるところがある。 遠打は遠開きと違って中合の変化処理をしなければならないが、本作はうまく処理してある。2.63。

テーマを浮かび上がらせよう(2)

kakikake.hateblo.jp

イキロンさんには前にも指摘されたのに、うっかり忘れていた。

狙いの取らせ合駒を打つ局面で、合駒を打つ場所は15から18までの4択になっている。 そこからよりによって唯一取られる18に打つ取らせ合駒。妙手姓が高い。

さらに自己ブロックでは74から34までの5択から44を選択している。

この場合、どこに合駒しても同じような未来が待ち受けていないとならないが、その点で84飛、94龍という構造は上手い。 どこに合駒しても同飛、同龍で取り返せる形だからだ。合駒の位置だけが問題になっており、44馬のときだけ、それが退路を塞いで打歩詰になる。

「この意味で移動合にしたのはマイナスですが」というイキロンさんの指摘も正鵠で、合駒の位置が問題なのに74や64には馬合ができないことを指摘している。 2手進んだ局面からであれば44角打合にできるので、はじめの2手の馬そっぽを入れておきたかったということだろうか。

http://kakikake.hateblo.jp/entry/2016/02/12/185204


テーマを浮かび上がらせよう

考えてみよう。当たり前だが以下に記することは個人の見解であり、絶対的正解や、若島さんや相馬さんの見解でもない。

2014年7月 短1 若島正氏作

19香、24玉、16桂、14玉、24桂、18歩、28飛、69香成、
18飛、24玉、25歩、同玉、15飛、24玉、35馬、同歩、
25歩、34玉、44と、
まで19手詰

まずは取らせ合駒。実はこの作品のテーマの浮かび上がらせ方はわかりやすい(と思っている)。若島さんの一号局は取らせ合駒を取らないのだ。一号局なのに。

6手目。受方が18歩とわざわざ取られる合駒を打った局面。ここで凡百の作家なら18飛から打歩詰に入り、それを打開して詰ますだろう。さらに打開を簡単にするために合駒を桂に変えてしまうかもしれない。(私だ)

ところが作意は28飛!「取らせ合駒」の一号局で、取らせを取らないというひねり。この作意設定によって、取る取らないが作品の争点になっている。

歩を2枚も持つと処理が面倒なところ、収束では再び打歩詰の局面を挟むことで捨駒を入れ、ほぼ最短の収束もテーマを浮かび上がらせるのに役立っているだろう。

2015年1月 中5 若島正氏作

12馬、24玉、53と、44馬、同飛、同龍、35角、同玉、
36歩、24玉、23馬、
まで11手詰

自己ブロック(壁駒発生)の合駒の方は少し難しい。

ひとつは12馬や53とといった攻方の打歩詰回避策が序に現れることだろうか。攻方の工夫があるからこそ、返し刀の自己ブロック合駒が映えるという見方だ。 しかし一番肝心なのは主眼手の移動中合(風)だと思う。53とで空けた44を塞ぐように飛び込んでくる馬。

自己ブロックの合駒を完全な中合で実現できるのかどうかは難しい。 取れない意味付けがあれば可能だとは思うが、その意味付けが自己ブロックの純粋さを濁らせる可能性は多いにありえる。

そこで移動中合風合駒。これはあとから見る一部の作家(私だ)にとってはただの合駒なのだが、解いてる人からすると何も利きがないところに突然捨てる中合に見えたことだろう。 このダイナミズムが肝心なのではないか。思えば取らせ合駒の28飛もダイナミックな途中下車だった。

ちなみに移動中合風も打合も紐付きなら同じことだろうと思って作った自作は、鈴川さん(だったかな?)に「龍を近づけるための桂合に見えて不利感がない」と言われた。たしかに。

狙いははっきり大きく示そう。