盤上のフロンティアに作品が引用されている作家は、宗看、看寿を筆頭に20名いるが、その中で唯一の若手作家といえば他でもない馬屋原剛その人である。
馬屋原さんといえば看寿賞受賞作をはじめ長編趣向作家のイメージがある一方、前例の無い中編構想作も数多く手掛けている。
スマホ詰パラ「豪勢な食事」の元ネタになった飛車の連続合や、
2015年11月 詰パラ 馬屋原剛
この詰2019でも言及されている香の限定打も記憶に新しい。
2019年2月 詰パラ 馬屋原剛
しかし今回は自分が勝手に「解答選手権のチャンピオン戦ではなく一般戦で出題されたために、歴史のひだに埋もれてしまっているのではないか」と思っているこの作品を取り上げたい。
第14回詰将棋解答選手権一般戦 馬屋原剛
56金、同玉、47銀打、55玉、64歩、75馬、56銀、同玉、 47金、55玉、56歩、44玉、57金、53玉、63歩成、まで15手。
49香の活用方法が玉を44に落として開き王手するくらいしかないので、それを目指す。まず単純に考えると初手から56銀、44玉、57金だろうか。これは53玉で詰まないのだが、このとき65の歩が64まで来ていれば63歩成までの詰みだ。
そこで初手64歩としてみる。以下、75馬、56歩、44玉、57金、53玉で今度は63歩成が指せるので詰み、のように思えるが、これは2手目の応手が間違っていて、75馬の代わりに75金とされると、56歩、44玉、57金のときに根本の香を49馬と抜かれて詰まなくなる。
このとき開き王手する47の駒が金ではなく銀だったら、58銀と開いたときに馬筋を遮断できることに気付けるだろうか。2手目75金の変化に備えて、初手から56金、同玉、47銀打と打ち替えるのが作意である。ちなみに75金とされてから打ち替えようとしても56金、同玉、47銀打、57玉、58金、同馬で詰まないので、先に打ち替えておく必要があるのが、当然ながらうまく作ってあるところだ。
これだけでも面白い意味付けの打ち換えなのだが、本作はもう一味ついている。打ち替えてからの64歩に対して、作意は75馬と取るが、そこですぐに56歩と打つと、以下44玉、58銀となって
これは48歩合くらいで詰まない。馬筋が通っているのだ。そこでこの馬筋を遮断するために、再び47の銀を金に打ち替えて57金と開き王手しないといけないというわけ。
変化に備えて金を銀に打ち替えて、すぐさま銀を元の金に打ち替える。それが開き王手で馬筋を遮断するためという統一された意味付けの上で成り立っているのが抜群の構成である。佳作。
ところで金駒で開き王手する馬屋原さんの作品といえば、やはり思い出すのはこの作品。
2019年2月 詰パラ 馬屋原剛
97香、83玉、61馬、72桂、98銀、73玉、79飛、83玉、 72馬、同銀、93香成、同玉、85桂、83玉、72飛成、同玉、 73銀、83玉、84飛、92玉、94飛、83玉、93飛成、74玉、 84龍、まで25手。
作意では5手目98銀と香筋を残すが、4手目72歩合なら96銀と香筋を自ら閉じて打歩詰を回避する必要があり、そのどちらも実現できる香の打ち場所が唯一97のみという斬新な意味付けの限定打。
本作も87の駒が金ではなく銀だから選択肢を残せる香打が成立するわけで、例えば金を銀に替えてから香を打つ構成にすることも、理論上はできるはずだ。(この作品の87銀を金にしても詰んじゃうけど)
だからこの97香も解答選手権の作品から派生して作られたに違いないと思ったんだけど、本人に聞いたところ特に関係はないらしい。意外。
この作品も下手に作ると76銀や78銀の開き王手を殺すために7筋に駒を置いたりしちゃうんだけど、開き王手で使った89飛を7筋でも使うことでこれに対処しているのがやっぱりうまい。