書きかけのブログ

詰将棋について書くことがあれば書きます

私の創作法(2)

冬眠する前、盤面5x5以内の最長手数記録作は103手だった。

塩野入清一氏作

コンパクトな初形から歩香の持駒変換を4回繰り返す好作だが、これが5x5の最長と言われるとしっくりこない。 盤面にはまだ余裕があるし、持駒変換も歩香とくれば桂までいけそうなものだ。 作例は挙げられないが、四歩を四香を中継して四桂に変換する作品はどこかで見た記憶がある。近代将棋図式精選かもしれない。

そこで香桂の持駒変換を入れることを考えた。 何も考えず繰り返しても4枚のうち1枚は品切れで桂に変わるが、2枚目以降は戻ってきた香を合駒されて千日手になってしまう。 攻方が桂を1枚手に入れると、その後は桂合をし続けないといけない論理が必要だ。

その構図は意外と簡単に見つかった。 なにせ5x5の中でつくらないといけないので、できることも限られているのだ。

仮想図・仮想作意

香が品切れになり、やむなく桂合したところ。 ここから14香、同玉、12龍、13飛、26桂!、同銀、13龍、同玉、11飛としたときに

24への利きが無くなっているので香合に戻すと23歩成から詰んでしまう。 したがって玉方は24に利かせるために、ここからは桂合をし続けなければならない。 攻方に持駒がたくさんあると収束をつけるのが大変なので、ここで1枚消費できたのも作家的にはおいしいところだ。

とは言えここからが大変で、長手数記録のためにはこのあと桂3まで持駒変換を繰り返す必要がある。 香3、香2桂1、香1桂2では詰まず、桂3のときのみ詰む形を見つけなければならないのだ。 5x5の構図に収めたまま。しかも飛合限定のために金は4枚配置しなければならない気配が濃厚になってしまっている。

構図を上下左右に平行移動させたり配置駒を少し変えたりして、いろいろと模索したが余詰や早詰に悩まされ、完全作は一向に見つからないままついに詰将棋自体から離れてしまった。

数年後、久々に創作を再開すると、今度はあっけなく収束が見つかってしまうのだから不思議なものだ。

下図は収束の入口。

ここで作意は54桂だが、先に62飛成と突っ込むと52銀が限定合で、以下54桂、41玉、53桂、同銀で逃れている。

この二桂持った一間龍に銀合で逃れる図は、20年前くらい、将棋初心者の頃(今でも初心者みたいなもんだけど)に読んだ入門書にもたまたま載っていたことを覚えている。 こういう偶然に作図が助けられると、詰将棋の神様の存在を信じてみたくなるものだ。

当初は2手長い下記の図を完成としていたが、TETSUさんから完全石垣の方がよいとアドバイスをもらい削った。

手数の話は抜きにしても、こちらの図だと序盤の55龍が駒取りにならないので、作者としては地味ながらそこが気に入っている。 せめてそれを活かしたまま完全石垣にできたらよかったのだが。

11月1日の私的三大将棋まつり

今日はいろんなところで将棋まつりが開かれていたので巡ってきた。

ひとつめは筑駒の文化祭。

自分が在籍していた頃は中学将棋同好会しかなかったのだが、その後おそらく1回潰れたあとに再開して、どうやら今では中高で部にまで昇格したらしい。 潰れかけの同好会しか無かったおかげで、私は指将棋ではなく詰将棋(ひとり遊び)にのめり込むことになったのだ。 囲碁でははるか昔から強豪校なので、将棋にも頑張ってほしい。

黒板に詰将棋が掲示されていた。右図は有名な7手詰である。 作者不明とあるのでお節介にもチョークを取って「南倫夫氏作」と書いたら、部員に見つかり怒られた。

怒られたのは嘘で話しかけられただけだが、聞いたらその方も詰将棋をやるらしい。 スマホ詰パラに作品を出していると言うので、作家名を聞いたところ「鈴川が知ってますよ」とのこと。 筑駒OBで現東大将棋部の方らしい。将棋界は狭い。

部誌の最初の記事が「安南将棋超入門」なのはマニアックすぎると思った。

ふたつめは神田古本まつり

の、ついでにアカシヤ書店に行ってきた。 詰将棋デパートの設立号や久保さんの初入選号などを買おうと思っていたのだが、今は詰パラバックナンバーは1年ごとのまとめ売りしかしていないらしい。残念。

みっつめは天童将棋駒祭り。

定価2万5千円のわけあり駒(経年劣化でシミがついている)が1万円で売っていたので、どうせ自分で使ってても汚すわと思ってそれを買おうとしたら、 横から駒職人の方が出てきて「それよりこっちの方がよい」と言うので言われるがままに1万5千円のこれもわけありの駒を買った。

家に盤が無いので、今のところ使えていない。

詰パラ11月号の第一印象

2ヶ月前くらいに投稿した作品が高校で出題されていてびっくりした。採用が早い。 (同時に投稿した7手は先月の小学校で出題されていたのでもっと早いんだけど)

そのおかげで2015年下半期は毎月どこかのコーナーで自作が出題されていたことになる。 12月号も抽選に漏れなければ短コンに載るはずだがどうなることやら。

先日の詰工房の二次会で石黒さんから「いただき妥協作家」の称号を授かったが、今月の高校でも早速いただき妥協作が解説されている。いただいたのは若島さんの壁になる合駒、妥協したのは頭4手。

不可解なのは「全詰連の頁」。連絡が無いときは個人的な話が書かれるという驚きはさておき、「流石にD級からの挑戦はありえない」の部分がよく分からなかった。そもそも詰将棋順位戦のシステムを分かってないのだが、D級からの挑戦はなぜありえないのだろう。さらに提出締切が看寿賞と重なって大変というのもよく分からず。順位戦は短コンや握り詰めと違って1年前から準備できるような気が。(短コンも手数を予想すればできるけど)

大学院は安武さんが今月で退任。「後任は私が安心してお願いできる若手実力作家」とあるので、一瞬私のことかと思ったが依頼を受けていないのでどうやら違うらしい。引き受けていたら私が若手実力作家なことがばれるところだったのである。

ところで今月号とは関係ないが、たまたま読んだ2012年9月号で田口さんが「流石に4年後は担当は……」と書いているのを見つけた。もしかして大学院やデパートに続いて表紙も今年いっぱいで担当交代するのだろうか。

妙手感のある単なる手数延ばし

ツメガエルさんのブログで自作が取り上げられた。

「単なる手数伸ばしだと思われると、妙手感が薄れてしまうので、手数伸ばしと思われない対策が必要になる」と書いてある。

7月発表の自作は玉方の応手の結果、攻方に余計に駒が渡っているので、単なる手数延ばし以上の意味がある。つまり妙手性が高まっている。 と、好意的に評価していただいているのだが、詰将棋なんていうひねた趣味をもつ天邪鬼な私はこれを読んでこう思った。

単なる手数延ばしだと本当に妙手感が薄れるのか。

そこで単なる手数延ばしなのに妙手感のある手順というのを考えることにする。 すぐに思いついたのは次のパターン。

2015年7月 山路大輔氏作

34馬、11玉、61龍、21香、同龍、同玉、61龍、31飛、
25香、23桂、同香不成、12玉、22香成、同玉、33と、同飛、
14桂、32玉、52龍、42桂、22桂成、同玉、42龍、32飛、
12馬、同玉、32龍、22金、14飛、13桂、24桂、11玉、
13飛成、同金、23桂、同金、12龍、
まで37手詰

作品の本質と関係ない話で引用してしまって申し訳ない。取り上げたいのは9手目25香と打ったところ。

ここで22桂合とすると同香成、同玉で作意に2手早く短絡する。 23桂合と中合すれば、同香生、12玉、22香成で2手稼げるというわけだ。

桂をタダで渡すので、妙手感があるといえばある(かもしれない)。

ヤケクソ中合 - Wikipedia

19香、18桂成、同香、25玉、26金、24玉、36桂、
まで7手詰

2手目25玉と逃げると26金と桂を取られて作意に短絡するので、どうせ取られる26桂を18桂成と捨てることで2手稼いでいる。

ヤケクソ中合自体が陳腐な手筋(?)なので、今となっては妙手感はあまり感じられないが(新出当時は不明)ところがこれを繰り返すと途端に創意が出てくる。

それで思い出した作品が、偶然なのか必然なのかは分からないがツメガエルさんの作品だった。しかも初入選作! (はじめ手順だけ思い出して作者名が思い出せなかったのを岡村さんに教えていただいた)

2010年12月 やさ院1

99角、77歩成、同角、66歩、同角、55歩、同角、44歩、
同角、33歩、同角上成、同桂、同角成、21玉、43馬、11玉、
44馬、21玉、54馬、11玉、55馬、21玉、65馬、11玉、
66馬、21玉、76馬、11玉、77馬、21玉、87馬、11玉、
77馬、21玉、76馬、11玉、66馬、21玉、65馬、11玉、
55馬、21玉、54馬、11玉、44馬、21玉、33桂、31玉、
32歩、42玉、43歩、51玉、52歩、61玉、62歩、71玉、
72歩、81玉、82歩、91玉、92歩、同玉、93歩、同玉、
66馬、92玉、65馬、91玉、81歩成、同玉、82桂成、同玉、
83桂成、91玉、92成桂、
まで75手詰

初手99角に33歩合とすると、同角、同桂、同角成、21玉で以下作意同様の馬鋸に入り、43から87まで並んでいる歩を馬鋸が拾うことになる。

ところが、初手99角に77歩、同角、66歩、同角と1枚ずつ捨てていけば、それぞれがヤケクソ中合になっていて1枚につき2手、合計8手稼げるというわけだ。

加えてこの作品が面白いのは、87の歩はヤケクソ中合せずに残さないといけないところで、馬鋸から一番遠い歩だけは残しておかないと、馬鋸の手順をカットされてしまう。87の歩を残すこと自体が26手の手数延ばしになっているとも言えよう。

これを「妙手感がある」と言うと、また主観の問題になってしまうので難しいが、少なくともただの手数延ばしでも、まだまだ面白いことはできそうだ。

詰工房に行ってきました

鉄は熱いうちに打てと言いますが、会合の参加記もすぐに書くべきなのでしょうね。だいぶ忘れてしまいました。

春霞賞候補には自作が初ノミネート。

2015年7月 短4 自作

33角、24歩、同角成、16玉、25馬、同玉、34銀不成、15玉、
16歩、同玉、25銀、同玉、43角不成、36玉、54角成、25玉、
43馬、34歩、同馬、15玉、27桂、同龍、16歩、同龍、
24馬、
まで25手詰

2手目の銀歩非限定や、主眼の14手目36玉の表現のダブリ(打診逃避(角の成らせ)と不利逃避(桂の取らせ))が嫌われて、票は得られず。

攻方に駒を渡さずに打診逃避するには、43角を駒打ちにする(鈴川案)か、54で成って戻ったあと43馬ではない別の手で詰ます(TETSU案)かが考えられます。

kakikake.hateblo.jp

というか、今月は青木さんの作品が良すぎました。

2015年7月 デパ3 青木裕一氏作

35金、56歩、17歩、同玉、18歩、16玉、56飛、46桂、
同飛、同馬、17歩、同玉、29桂、16玉、17歩、15玉、
25金、
まで17手詰

安武利太さんもこれを「青木手筋」と呼んでいて、自分だけではないとひそかに安心しました。

kakikake.hateblo.jp

一次会の終了間際、どなたが言っていたか忘れてしまったのですが(なので言葉尻が間違ってるかもしれませんが)、相馬康幸さんの作品が余詰まないのは本人曰く「手順に論理があるから、その論理から外れた手は成立しない」ということらしいです。わかるかなあ。わかんないだろうなあ。私にはわかりません。

一方、二次会では石黒さんが「受験生はあらかじめ2013、2014、2015の素因数分解の答えを覚えておくべき」と言っていて、これはなるほどと思いました。ちなみに2016は細かく素因数分解でき、逆に2017は素数です。ここ試験に出ます。

他に印象的だった二次会の発言といえば、えび研で久保さんが「ヒラキ王手」と言うたびに「アキ王手ですね」と突っ込んでいた鈴川さんが「双方はソウカタと読むのでは」と言い出したり、遅れてきた原田さんが「短コンでは中合を出すことを自分に課している」と言ったりしたくらいですかね。

ちなみに原田さんは短コンがシード制になってから一度もシードを外れたことがなく、もっと言えばベストテンを外れたことがないそうです。これが中合の力……

最後、解散のときに手持ちの現金が無くATMも休止中だったので、二次会の代金を馬屋原さんに立て替えてもらってしまいました。 来年からお世話になる(予定)のに先行き不安です。

歩武の駒のハート詰

「歩武の駒」というマンガに詰将棋が載っているというので買ってきた。 5巻(2000年6月初版)の45話「ホワイトバレンタイン」。以下、軽くネタバレ。

主人公とヒロインはどちらも奨励会員だ。 ある年のバレンタイン、ヒロインは密かに思いを寄せる主人公のために40枚の駒を全てチョコで作り、 81マスに仕切られた箱に指し始めの形に並べてプレゼントしようとする。

ところが目を離した隙に他の人がチョコを食べてしまい、実戦初形には駒が足りなくなってしまう。 落ち込むヒロインにチョコを食べた人が代案として示したのが下記の形だ。

25龍、35角、34銀不成、55玉、35龍、同桂、33角成、64玉、
65歩、同金、53角、同玉、65桂、64玉、63金、65玉、
66馬、54玉、84飛、74桂、同飛、同歩、46桂、同香、
43銀引不成、
まで25手詰

序盤に移動合、収束に限定合が入って詰め上がりはハートの形。 盤の端は使わず不動駒も1枚だけと、とても現代的な曲詰だが、手数の割りに難しいので解いてる間にチョコが解けてしまいそうだ。

結局はこのあとも食べられたりなんだりで駒は減り続け、ハートも作れなくなったヒロインは別の手段に打って出るのだが――

www.amazon.co.jp

例によってここから買われても、私には何の利益もありません。

7手短コン傾向と対策(3)

7手コンと言えば、個人的に忘れられない作品がある。

1999年12月 三谷郁夫氏作 短コン1位

67角、34桂左、22桂成、13玉、68角、同龍、93龍、
まで7手詰

私が詰パラを初めて買ったのが1999年。その年末に出題され、たった7手なのにまったく解けなかった作品だ。 よく似た構図からの遠角は図巧にあり、当時の自分もそれは知っていたはずなのに解けなかった。

図巧8番

43歩、同玉、33金、同歩、52銀、同馬、32桂成、44桂、
同金、同角、同と、32玉、87角、同龍、43金、同馬、
同と、22玉、34桂、同歩、77角、同龍、92飛成、32角、
同と、同金、同龍、同玉、23金、31玉、22角、21玉、
12金、32玉、33香、同桂、23桂成、同玉、13角成、32玉、
22馬、
まで41手詰

13手目に遠角を放ち

その8手後、再び遠角。捨てた角が収束で合駒として戻ってくるのも上手い。

あるいは近代将棋図式精選でOT・松田作も見ていたかもしれない。

1969年10月 OT・松田氏作

86金、94玉、58角、同龍、85金、93玉、57角、66角、
94歩、92玉、22飛成、同角、93角成、81玉、82馬、
まで15手詰

しかしこれらの作品は初めの遠角が玉方飛車の利きを遮る位置に打たれている。 当時の自分はその感覚で三谷作でも78角を読んでしまい、詰ませられなかったのだ。

縦にも横にも何もないところに打つ遠角

ところで利きを遮る位置に角を打った場合、中合の変化処理は考えなくてよい。

OT・松田作に中合すると

角が飛車利きを遮っているので、85金から、99飛で簡単に詰んでしまう。 ところが三谷作では利きを遮らないので、中合について考える必要がある。

三谷作に中合すると

これがまあ作図の上手いところで、22桂成以下作意同様で桂余りなのだ。2手目は取られる桂を逃がすのが最善手というわけ。

この仕組み「この詰2010」の「超短編における中合対策の研究」でも取り上げられているかと思い確認してみたが載っていなかった。

同じく利きを遮らずに遠角を放ち、あえて中合させる方を作意にした作品がTETSUさんにある。 といっても三谷作より前の作品なのだが。

1998年11月 TETSU氏作

58角、67歩、85角、93玉、83と、同玉、47角、同飛成、
74と、93玉、99飛、
まで11手詰

これも名作。