渡辺作の前にまずはこの作品。
2018年1月 青木裕一
32銀打、34玉に78角と香を取る。受方の持駒は飛金香歩だけなので合駒に使える駒は実質3枚の香だけだ。素直に45香合としてみよう。
攻方は銀知恵の輪で玉を送って別のラインから角で王手をする権利を持っている。23銀上生、25玉、69角が2本目のラインで47香打。
14銀生、34玉、23銀引生、43玉、87角が3本目のラインで54香。
32銀引生、52玉、96角が4本目のラインでなんとここで香が品切れだ。これは簡単に詰み。
角の王手ラインが4本あって、香が3枚しかないので、普通にやると1枚足りなくなってしまう。戻って78角のときに工夫が必要だった。3手目45香の代わりに67香としてみよう。
香合を角に近付けたことで69角のラインを防ぐことに成功した。残りは87角と96角の2ラインで、香もあと2枚残っているので勘定が合う。87角に54香、96角に74香で不詰だ。
このとき当たり前に思いつく疑問がひとつある。67香の瞬間は大丈夫でも、素直に同角と取られたら角のラインがまた4本になって、受方の香は1枚減って残り2枚で全然意味がないではないか。
ところがどっこい意味があるのだ。67香を同角と取ると58角のラインを潰すために、さっきと同じ理屈で56香となるが、このとき52に玉を運んで85角と出てみても同桂と取られてしまい合駒請求できない。
この局面で王手できるのは67角と76角の2ラインだけになっていて、角を67に近付けたことで受方は1ライン削ることに成功している。56香を同角と取ってさらに45香としてみると、47角も65角も74角も指せなくなっていることが分かる。
67角のときは85角が指せなかったけど、56角のときも74角が指せないように85にも74にも受方の駒が利かせてあることに注目されたい。角を1マス近付けるごとに王手ラインが1つずつ消えるようになっているのだ。前例のない独創的な連続合原理である。
ではこの連続合の原理を上下反転させるとどうなるだろう。香の利きは後ろにないので、ただ反転させただけではうまくいかないが……
2024年3月 渡辺直史
攻方は38銀、同玉、39金、27玉、28香、16玉とすることで銀知恵の輪ではないが玉を斜めに運ぶ権利を持っている。そして16玉の局面が打歩詰なので、攻方は歩以外の駒を合駒で手に入れることが当面の目標となる。具体的には84の馬を動かして歩合以外を出せたら良い。
初手は素直に85馬としてみよう。対して受方もまずは一番素直な58歩を考える。
それには38銀、同玉、74馬と進めれば5筋が二歩になっていて、早くも歩以外の合駒を手に入れることができてしまう。以下、56香打、同馬、同香、39金、27玉、28香、16玉、17香まで。
58歩合をしたあとに、5筋で合駒請求させないためには、馬が67にいればいいはずだ。それでは2手目67歩はどうだろう。
同馬は58歩、38銀、同玉、56馬、同香で詰まないので、この歩は取れない。ところが取らずに38銀、同玉と進めたときに74馬とする手があって、以下56歩、39金、27玉、63馬で54香合を引き出されてしまう。
この局面で、67歩の場所を76に変えて、56歩の位置を65に変えると、54歩合が間に合うことに気付けるだろうか。
65歩合を同馬はあとで54馬となって合駒請求が効かず、76歩合を同馬もあとで65馬、56歩から54馬となって同じ結果だ。76歩合も65歩合も取れない合駒になっているのだ。実際、初手85馬はこの手順で逃れである。ではどうすればよかったか。初手は94馬が正着。
対して85馬のときと同じように76歩合と受けると
以下38銀、同玉、83馬、65歩、39金、27玉、72馬、54歩、28香、16玉、61馬と全てのラインで王手をかけて、ぴったり5筋で合駒請求をかけることができる。
ここでは43歩という香を渡さない手もあるが同馬、同金で守備駒の金が下がるので詰む。受方の正着は2手目85歩だ。
これに馬のラインで王手をかけ続けても、38銀、同玉、83馬、74歩、39金、27玉、72馬、63歩、28香、16玉、61馬に52歩が間に合う。
馬の王手のラインが4本あって、その全てを歩合で受けるには、馬に近接して打たなければならないのだ。なぜ近接しなければならないのか、その意味付けが青木作では香の利きにあったが、渡辺作では二歩禁にある。例えば2手目76歩合の変化で、83馬にもし74歩合が打てるなら、これは逃れである。
しかし実際には二歩で74歩とは打てない。戻って76歩ではなく85歩としなければならないのだ。そして馬が近づくごとに、香筋の干渉が早まって馬の王手ラインが減るようになっており、作意は同様の原理で85同馬、76歩、同馬、67歩、同馬、58歩と4連続合が出てくる。
ここでは連続合の原理だけに着目したいので収束は並べないが、馬2枚と持ち歩3枚を使い切って鮮やかに詰め上がる。連続合の歴史に残る傑作だ。