書きかけのブログ

詰将棋について書くことがあれば書きます

第1回 詰将棋サイコロトーク 山梨富士山編

サイコロを投げて出た目に書かれている詰将棋用語について喋るという、合コンで大盛りあがり間違いなしの企画を思いついたので、いのてつさんとくぼさんを呼んでトライアル開催してみた。カピバラアイコンがいのてつさんで、ネズミアイコンがくぼさん。詰将棋用語は「誰も言わなかった詰将棋用語集」の見出し語を使った。

最小公倍数原理
いきなり重いやつだ。
何すればいいんでしたっけ。
テーマに合う作品を語ったり、無かったら作ったり。せっかくなんで駒種のサイコロも振りましょう。
最小公倍数原理は何作品あるんですか?
伝統ルールだと2つです。
2作目はどういう公倍数なんでしたっけ。
右の飛車の位置と左の飛車の位置ですね。


2017年11月 中村宜幹 ヘミオラ

受方の飛車が63→73→63と往復している間、攻方の飛車は24→14→34→24と動く。73飛・24飛のときだけ収束に入れるが、飛車の動く周期がずれてるので2x3の6回同じ手順を繰り返さなければならない。

あ、これと金知恵の輪だからテーマの「最小公倍数原理+金」になってますね。
「金」と「と金」は一緒なんですか?
「と金」の目も用意してあるので別でした。
実は自分も最小公倍数原理考えてるんですよ。まだ構想段階ですけどxxxがxxxでxxxになって。
それ実現できたら面白いですね。
最小公倍数じゃなくても、3サイクルや4サイクルの趣向って珍しいんですよ。
合駒パクリながらぐるぐる回して品切れ狙うやつは?


柏川悦夫 駒と人生 第18番

86桂、95玉、74桂、94玉~82桂成、74桂合、86桂を4回繰り返して桂を品切れにする作品。

あれは循環しないので。無限に回し続けられないとだめです。
4サイクルで無限ループといえば香4枚の持駒を桂4枚に変えて、また香4枚に戻す田島さんの作品を思い出します。
あれは状態としては香4と桂4の2状態だと思ったけど、香4・香3桂1・香2桂2・香1桂3・桂4の4状態とも見ることもできますか。そういう意味では4サイクルの作品もまあまああるのかな。
この作品が特殊で、あまりないとは思います。


2005年11月 田島秀男

攻方の持駒桂4枚を香4枚に持駒変換して馬鋸を1つ動かしたら、今度は香4枚を桂4枚に持駒変換して馬鋸を1つ動かす作品。馬鋸は合計4回動くので、4枚の持駒変換も4回行われる。収束余詰。

この作品はえぐい。
次のテーマいきましょう。
モデルメイト
手が広いので駒種ではなく、もうひとつ詰将棋用語を出してみますね。
不利逃避
ちょうどパラの今月号(2023年5月号)にモデルメイトの話出てましたね。
「モデルメイトは、玉周辺のマスに攻駒の利きが重複しない詰上りのこと」と書いてあります。
モデルメイト兼不利逃避なんてあります?


誰も言わなかった詰将棋用語集 P16モデルメイトの説明図

44歩を不利逃避で取らせて45歩と打ち返すとか?
フェアリールールにしてみるのはどうですか。モデルメイト以外は詰みと認めない。
ばかならやりやすそうですね。かしこでやったら不利合が簡単に出せそう。45に銀を打たせた方がモデルメイトにならないみたいな感じで。でも作るのは難しそうですね。一見無理な方に逃げてもモデルメイトじゃないからと逃げられちゃいそう。
変化もモデルメイトで詰まさないといけないんですね。
我々、フェアリーに走っちゃいましたけど、(伝統ルールの)モデルメイトも好きな人は好きですよね。逆に不利逃避の方はどうですか。
不利逃避で駒種を決めてみますか。
例えば44玉13金に22馬でヤケクソ不利逃避みたいな感じでどうですか。35玉、13馬、44玉、22馬、33合、同馬、同玉、13飛成。あんまり簡単にできてもつまらないけど。

どうせ取られる駒を先に取らせるのが、どんだけ不利なのかですね。
手数があけば不利感でるけど、すぐ取っちゃうとどうせ取るんじゃんってなりますね。
連取りで歩が並んでるんだけど途中の歩を序盤に不利逃避で中抜きさせておく方が長いみたいなのはどうですか。
ロジックは、連取りで歩1枚取ると攻方が2枚儲かるから連取りではないところで先に取らせておくみたいな?
あとは連取りでは歩が2枚同時に取れるので、片方はあらかじめ不利逃避で取らせておくとか。でもこれ広瀬さんの馬鋸にかなり近いな。


2010年12月 広瀬稔

初手99角に33歩は同角成、同桂、同角成から馬鋸に入り、87歩を取って戻って詰み。43・54・65・76の歩は道中取られるだけの駒なので、2手目から77歩、同角、66歩、同角、55歩、同角、44歩、同角と取らせておく方が手数が長い。

ヤケクソ以外の不利逃避の意味付けとしては退路開けとか打歩詰とかがありますね。
取歩駒の金を不利逃避で取らせても、それで攻方が金を持っちゃうからなあ。
金は打歩詰では無理ですね。一番高くて山梨富士山の角ですよ。
なんですか山梨富士山って。
え、1号局の51角取らせる作品です。
あれ山梨富士山って言うんですか。
はい。作者が。
あ、山田修司さんか。

高木手筋みたいになってて、不利逃避で金をもらえると、逆に別のところで別の駒がもらえなくて、道中金を消費させられちゃうっていうのは?
面白いとは思うけど構図が思いつかないですね。
単なる退路開けなら簡単にできそうですよ。35金15玉で24角に同玉は33銀、15玉、24飛成で詰むことにして、26玉、35角、15玉、24角、同玉、あんまり不利感ないかも。

不利逃避難しいな。
あんまり不利じゃないんだよね。
若島さんも「口が悪いやつは有利逃避と言う」って何かに書いてました。
それを言い出すと不利合も有利合ですね。
次のテーマ出しますね。これサイコロより詰将棋用語カードの方が便利だな。
発売しますか。バンダイナムコから。
誰が買うのそれ。
酒井手筋
酒井手筋のどこの役割を飛車にするんでしょう。
飛車の成生?
久保さんの角成生も酒井手筋ですか?
酒井手筋の定義があいまいっちゃあいまいなんですよ。
いつかの短コンに馬屋原さんが酒井手筋の最短手数を出してましたよね。あれは作者自ら酒井手筋と言っていた気が。


2021年12月 馬屋原剛

初手から46馬、54玉、53銀成は同飛左と43の方で取られて不詰。かといって初手66馬は53銀成に同飛右で詰まない。そこで馬の態度は保留して初手56歩とする。以下54玉、53銀成と先に受方に態度を決めてもらうのが後出しじゃんけんとも言われる酒井手筋。

この方がオリジナルの酒井作には近いと思います。自作が酒井作っぽくないのは、行って戻らないところで、どっちがプラス・マイナスというわけではなく原作とは違う雰囲気になってますね。
久保作は打診ですよね。


2014年9月 久保紀貴

23銀、同玉、14角、13玉、32角成は15角生で打歩詰、32角生は15角成で詰まない。14角を打つ前に26飛と捨てて受方の成生を先に決めさせる。26同角成には14角、13玉、32角成で、26同角生には14角、13玉、32角生で詰む。

打診の目的が相手に先に成生を決めさせることになってます。
この角対角の打診は最近どこかで見た気がするなあ。
森長さんの個展?


2023年2月 森長宏明

54金、同歩に44銀成は13角、66飛、同銀成で逃れ。44銀生は13角、66飛、同銀生で逃れ。44銀の開き王手より先に66飛として受方銀の成生を決めさせておく。

ほんとだ。銀対銀になってるんだ。
この作品が面白いのは飛車捨ての意味が同銀成で取ったときは取歩駒の発生で、同銀生で取ったときは55への飛車の利きの消去なんです。55への利きは44銀成と対応していて。
好きな作品だと思ってたけどそういう意味付けが隠れているのか。
これは成生に明確な大小関係がある角ではできないんですよ。いや、45角不成でできるのかな?まあでも面白い作品です。
森長さんの個展は4番も面白かったです。


2023年2月 森長宏明

初手84飛は73玉、82飛成、64玉、69龍、67桂合、62龍、63歩合で逃れる。初手から79龍、76桂合としておけば69龍、68歩合で次の62龍に63歩合が二歩禁になる。

桂合は若島さんにもあったと思うけど面白いのは禁則ルールを全部使ってるところ?
若島さんは角を逃さない意味合いじゃないですか?
若島さんじゃなかったかもしれないけど、桂合を挟むことで合駒位置を8段目に持っていく作品は見たことがあります。
それこそ森長さんの作品にありますよ。


1992年12月 森長宏明

初手53金は41玉、49飛、47桂合で逃れ。最初に59飛、56桂合の交換を入れておくと49飛に48桂合ができない。作意は48桂成、同飛と桂を捨てて47桂合を実現するが、1枚多く桂が手に入るので詰む。

(個展の作品は)桂合だけ切り出すと禁じられた遊び手筋だけど、それをなんでやるかというと62龍のときに歩合させないためで、なんで歩合が困るかというと歩合だとそのあと75歩が打歩詰になる。連鎖してるんですね。
初手84飛だと69龍、67桂合に62龍、63歩合で逃れなのか。
あれ?67桂合だとそもそも打歩詰にならない?
78龍、76歩合で稼げますよ。
67桂合、63桂合のときは桂が品切れだけど、67桂合、63歩合のときは76桂合ができるから、そうすると打歩詰にならないですね。連鎖してるのは二歩禁までかも。

やろうとしてることは面白いのに鍵が79龍なのが残念なんです。この初手を指すための何かがないと演出としては物足りなくて。

次を最後にしますね。
成香
偶然にも。
いまでたやつだ。
禁じられた遊び手筋好きなんですよ。ほどよいマイナー感というか。将棋指してる人は打歩詰は知ってても、8段目に桂が打てないことは気にしたことないと思うんですよね。
それでいうと上田さんの17角37角が好きです。
8段目桂合不可は打歩詰級に詰将棋のためのルールだと思ってます。
将棋のルールは桂合不可とは言ってないですからね。行きどころのない駒はだめですよと言ってるだけで。
そのルールが結果的に8段目に桂だけが打てない状況を作ったわけですね
上田さんの17角はどこから思いついたのか分からない感じが好きです。このまえシナトラくんと上田吉一論やったんですけど、好きな作品が一致してて良かったです。短編だとこれとか。
短編だとどれですか?
51玉に24角から始まるやつ。


1978年11月 上田吉

それをシナトラくんと2人だけで?濃いなー。
他には若島正論とか相馬慎一論とか。
濃いなー。

禁じられた遊び手筋ってあんまり作られないですよね。
大掛かりになりがちですからね。
でも最近やさしい大学院でありましたよ。割りとオーソドックスで、禁じられた遊びが桂を捨てるところで角を捨てるんです。それ自体は長い伏線になってないんですけど、角を捨てるために香を消去しておくところが伏線になってて。
表現が古典的で自分も好きです。
序の伏線の部分はよくできてますよね。
本人はあまり気に入ってないと詰工房で言ってましたけどね。


2022年12月 中丸哲

普通に進めると49飛に47桂合で逃れるので、あらかじめ68角、同龍の2手を入れて48歩合を引き出したいが、初形のままでは77香が邪魔で角を引けないので序盤に色々やって香を動かしておく。

いのてつさん詰工房行ってるんですか。
いのてつさんは常連ですよ。
最近のメンバーだとかいりゅーさんとか気になってます。
かいりゅーさんは芹田さんのお気に入りです。
よく絡んでますよね。
2人でよく三次会に行ってますね。

大崎さんは詰工房来ないんですか。
自分にとって詰工房は居酒屋で誰の横に座るか勝負なところあります。
最近は人も少ないから勝負もないですよ。
6月行きますか。
詰将棋について喋るなら、この会で十分でした。
話してみるとネタは思いつくもんですね。
やっぱり詰将棋用語カード作ろうかな。
違う創作意欲が湧いてますね。作ってゲームマーケットで売りましょう。
今日やらなかったけど符号も使いたかったんですよ。45とか29とか。
今日のテーマが難しいんですよ。駒種や符号と組み合わせるならもうちょい簡単なやつがいいです。
誰も言わなかった詰将棋用語集から選んでるから馬屋原さんのせいですね。
あれは名前が面白い用語を選んでるらしいですよ。
セルフピンとかバッテリーとか簡単なのも載ってたんでそれが出たらよかったんですけど。
最初が最小公倍数だったんできつかったですね。
駒種はブルータスとかならいけるんですけど。
かえって漠然としたネタが出たから良かった面もあるかも。
意外とテーマだけでも話せましたね。
これサイコロでもカードでもいいから詰工房の2次会もっていったら盛り上がりそう。
すべらない話みたいな感じで。カード引いた人が小ネタを出すとか。
詰まらない話?
いいですね。詰まらない話カードつくりましょう。
詰将棋用語集ってたまに誰かが作るけどまとまりきらず終わっちゃいますよね。
そうですね。ウィキとかあったけど。
鈴川さんに発注したらおしゃれなカードにしてくれるのかな。

また第2回やりましょう。
これあんまり一般向けではないですね。一般向けに説明しようとするとめんどくさいので、配信とかではなくて身内でやるのがよさそう。
あいばさんが解説しながら編集してくれたら普通の人も見れるかもしれません。
マイナビでやってもらいましょう。

名誉の味がする

1989年11月 行き詰まり「無への疾走」

「下段の香に力あり」の格言に従えば、初手は89香の一手だ。75玉と逃げる手に84銀と打ち捨て、これを同銀なら87銀まで詰むが、取らずに74玉とかわされると67銀には64玉、87銀には84玉で詰まない。

もう結論はバレてそうな気もするが気にせず続けると、次に考えたい初手は87香の短打だ。これなら75玉、84銀、74玉には89銀と香筋を遮らずに王手できるので詰む。ところが今度は84銀を平凡に同銀と取られて詰まない。

84銀に74玉は89銀まで、同銀は87銀までで詰ませたい。どうすればよいか。ここまで来たら簡単な話で、初手88香が正解である。

この構造、どこかで見た気がするだろう。お手元の誰も言わなかった詰将棋用語集の49ページを開いていただきたい。名誉手筋によく似ている。

「誰言わ」の定義には「利きを通すか閉じるか選択する」とあり、行き詰まり作の87銀は香筋を閉じるための手ではないので名誉手筋にはあたらないことになる。名誉手筋ではないが、30年も前に名誉手筋のような態度保留の一手を5手詰で実現したことを称えて、行き詰まり作には名誉名誉手筋の称号を贈りたい。

思わずスクショした対局2020

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取歩駒の利きを巡る攻防。

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両対局者、後手玉に詰みありと読んでいたが手順中32金合のところ飛合で詰まなかった。

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83飛打!

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記録係はこの局面が寄らないと見ていたんだけど

実は32龍、同玉に41角があって詰んでいたという話。41角はまさに手筋物。

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28銀に同銀は26銀以下詰み。同玉は手元の非力なパソコンでの短時間検討では詰みを見つけられなかった。

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退路封鎖による打歩詰誘致に対して

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先打突歩詰で対抗。

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69角に89玉と逃げて頓死。たしかに腹金は見えづらい。

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打歩詰の局面だけど26角、同玉、36金で詰み。

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後手玉は52馬、同玉、32飛に42香の捨合で不詰。

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打歩詰の局面だけど23龍、同銀、17桂、16玉、27角、15玉、25桂、同玉、16角、15玉、43角成で詰み。

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32桂成、同玉、44桂と桂馬を打ち替えて22玉に25飛以下詰み。

詰パラ2020年11月号は出色の出来だった

結果稿に良い作品が目白押しだった。ここ数年で最高。初めて詰パラを読む人にお勧めしたい号だ。

2020年11月結果稿 小10 藤原俊雅

14角、25銀、36銀、同銀、45龍、同龍、57金まで7手

中合を動かす場合、普通に作ると合駒、玉の移動、合駒の移動で受方に3手かかるため、最短でも7手詰になる。

藤原作も7手で中合を動かしているが、この作品は7手中合動かしの文脈とはまた違った鑑賞が必要だ。

というのも、玉の移動を省略するテクニックを用いると5手でも中合を動かせることが知られており、実際この藤原作の中合移動も5手でまとめられるからだ。

下谷曲希

58馬、36銀、25銀、同銀、34飛まで5手

構図は違うが角と飛の交点に銀の中合が発生して、それが直後に動くという手順はよく似ている。5手でできることをわざわざ7手かけてやるというのは、作り方によっては蛇足や冗長、焼き直しのそしりをまぬがれないが、しかし藤原作はそういった疑問を感じさせないほど完成度が高い。

追加された2手で龍を捨てるのもさることながら、初手14角も57金を狙った捨て駒になっているし、下谷作が斜め後ろに利く駒として銀合に限定させているのに対して、藤原作は斜め前に効かせているため金合の変化が新たに生まれており、この変化も取って57金打までで詰むようになっている。

変化処理が57金に統一されることで余計な駒が増えず、すっきりとした構図のなかで5手中合動かし+2手が成立している。7手詰ではあるが、5手中合動かしの決定版といってもよいだろう。

超長編の許される変長と余詰

あらかじめ断っておくが、人の作品を不完全だとかキズ物だとかあげつらいたいわけではなく、最近知ったこと気付いたことを記載しているだけである。


今月、パラの順位戦で変長作が入選取消になり、ちょっとした論争になっているが、変長の話になると必ず思い出す作品がある。(作者はそんな思い出され方はされたくないだろうけど)

2010年7月 井上徹也 シンメトリー

収束直前、495手目に88飛と打ったところ。

作意は95玉、96歩、同玉、97馬、同玉、99香までだが、87飛合とするとどうやっても2手長1駒余りの変化長手数になる。変長作でありながら本作はこの年の看寿賞を受賞した。(重ね重ね言うが、看寿賞受賞を非難したいわけではない)

変長がどれほどのキズなのか、いっそ現代では不完全の扱いにしてしまってもいいのかについては議論の分かれるところではあるが、余詰が不完全というのは誰しも認めるところだろう。ところが超長編の世界では余詰も許されているケースがある。

2006年10月 田島秀男

286手目13玉としたところ。

作意は23歩成、同玉、24馬までだけど、ここで12成香と取っても詰む。

1999年8月 橋本考治 アルカナ

634手目98玉としたところ。

作意は99香、同玉、88銀、98玉、99金までだけど、99香と99金を入れ替えても詰む。(これは余詰ではなく、あくまで手順前後や非限定のキズだと見る人もいるかもしれない)

超長編では終わり5手くらいの余詰は許されているようだ。(てっきり終わり3手までかと思っていたが、終わり5手で許されている作品もあった

短中編でも最終手からの余詰は許されているので、手数の長い超長編ではその範囲が拡張されるという論理は分からなくもない。

私見では超長編で収束の余詰が許されている一因は、看寿の寿611手詰が601手目から余詰があるのに完全作として扱われていることに端を発しているのではないかと思っているが、どうだろう。

ただ、田島作もアルカナも看寿賞間違いなしの作意でありながら、実際には受賞していないところを見ると、収束余詰は完全作として発表はできても看寿賞では避けられてしまうようだ。(聞いた話では、アルカナは修正再出題が影響したらしいが、当時のパラが手元になくて不明)

夕星と魁

今月のパラで自分と流さんの合作が言及されていた。

2020年6月 野曽原直之 「夕星」

46桂、55金、同飛、56金、同飛、57金、同飛、58金、
48銀、69玉、78馬、同玉、87馬、同玉、88と、76玉、
87と、75玉、86と、74玉、85と、63玉、75桂、52玉、
41桂成、57金、51銀成、43玉、44金、同玉、45金、同玉、
54銀、55玉、56歩、同玉、57銀、同玉、48金、56玉、
57歩、55玉、45金、
まで43手で詰

初手46桂に55金と近接合が出る。これはぐるっと玉を追いかけ回して52玉、41桂成に54金と飛車を取るための手だ。

結果稿によれば次の作品が発想の起点になったそうだ。

2003年9月 流崎。

67龍、66桂、同龍、65桂、同龍、64桂、同龍、63桂、
51歩成、同玉、62と、同玉、74桂、52玉、54龍、53金、
64桂、61玉、72桂成、同玉、82桂成、61玉、62銀、同玉、
51銀、61玉、73桂、52玉、41馬、同玉、42歩、32玉、
41銀、23玉、13と、24玉、14と、25玉、15と、26玉、
16と、27玉、18銀、38玉、29金、49玉、59金、
まで47手詰

初手67龍に66桂と近接合が出る。これはぐるっと追って59玉に58龍を防いだ手だ。

たしかに似ているし、発想の起点になったのは先行作の作者としても嬉しい話だが、多くの人が夕星を見て思い出す作品は自作ではなく魁の方かもしれない。

1986年 添川公司「魁」

21角成、同成香、19龍、18歩、同龍、17歩、同龍、16歩、
同龍、15歩、同龍、14歩、同龍、13歩、同龍、12歩、
21銀成、同玉、31と、同玉、34香、33歩、32と、同玉、
33と、41玉、42と、同玉、22龍、53玉、54歩、64玉、
62龍、63金、65歩、同桂、63龍、同玉、64歩、同玉、
55金打、63玉、64歩、52玉、53歩成、同玉、54金、42玉、
43香、51玉、52歩、61玉、72香成、同成銀、同と、同玉、
63歩成、81玉、82歩、同玉、93銀、83玉、92銀不成、82玉、
74桂、同と、83歩、71玉、72歩、61玉、51歩成、同玉、
42香成、同玉、53金、51玉、52金、
まで77手詰

19龍に18歩合と近接合が出る。これはぐるっと追ったときに19歩成と龍を取るための手。

夕星と魁に共通しているのは、王手駒が動かないということだ。自作は58龍と移動する先のマスを殺しているのに対して、夕星と魁は王手駒がいる位置に利かせている。魁は7連続合なので下に回り込むスペースが無く、すべての段で横から王手する作りになっているので、構図の制約が凄まじいことになっているが、動かない王手駒の位置に利かせるという点は夕星と同じである。

流崎型でやるなら54飛に55銀合として

ぐるっと回って62玉に64飛となるだろうか。

魁型と流崎型と、どちらが優れているというわけでもないが、いずれにせよ歩合や桂合よりも金合を取っていく方が余詰みやすいと思われるので、夕星、よくぞ作ったものである。

質駒を狙う馬屋原手筋

連続合のロジックは手筋ではなく原理と呼んでいたような気もするけど、馬屋原手筋が浸透しているので、ここでも手筋としておく。

連続合駒の意味づけのひとつに、王手駒の利きに利かせるものがある。

例えばこんな感じの仮想図で

91飛に81銀合と近接合すれば、12歩は同玉、92飛成、同銀で詰まないというもの。

連続合駒が狙いということは近接合をサボれない仕組みが必要になってくる。

81銀合に代えて71銀合なら12歩、同玉、92飛成、82歩合となって、これがなぜか詰むというわけだ。

これは取られず生き残った92龍を活用したり、82の合駒が攻方に有利な駒種しか打てない仕掛けを用意することで解決できるが、馬屋原手筋は前者である。

2015年11月 馬屋原剛

93角、84飛、同角成、75飛、同馬、46玉、55銀、同玉、
54飛、同玉、44飛、63玉、64馬、62玉、73銀、71玉、
82銀不成、62玉、73馬、53玉、45桂、同角、64馬、62玉、
73銀不成、71玉、41飛成、61桂、同龍、同玉、62歩、71玉、
83桂、81玉、82銀成、
まで35手詰

93角に75飛合と近接合をサボったとしよう。すると58歩、46玉、82角成、73歩合で82馬が取られずに生き残るので

55銀打、36玉、72馬と角が取れて詰む。もし72馬を同Xと取り返されても45角でやはり詰む。72角を取られたら終わりなので、その一歩手前の82で馬を消しておかないといけない。そのために近接合がサボれないというわけだ。

84飛合なら詰まなかったのにの図。

馬屋原手筋の面白いところは、72角という1枚の質駒を巡って近接合が2回起こることだ。

つまり、84飛合を同馬と取ったあと、

ここで66桂合と近接合をサボると、58歩、46玉、73馬と再び質駒を狙われて

64桂合、55銀打、36玉、72馬までである。

72角を取りに行くルートが82からと73からの2つあるので、近接合も2つ出るということだ。

それでは質駒が2枚あったら近接合が4回出せるのではないか。そうして作ったのが次の自作である。

2016年10月 自作

98馬、87香、同馬、76香、同馬、65香、同馬、54香、
35桂、34玉、26桂、同歩、24と、35玉、39龍、38歩、
同龍、同と、25と、同玉、47馬、34玉、35香、同玉、
36馬、34玉、35香、23玉、45馬、13玉、14歩、同玉、
36角、25桂、同角、同玉、17桂、14玉、15歩、同玉、
16香、同玉、34馬、15玉、25馬、
まで45手詰

馬屋原作を上下反転させた形で、飛合の代わりに香合が出るようになっている。質駒は79銀と57銀だ。普通に考えたら79銀を取るときは57銀が邪魔で79馬とはできないのだが、48龍、同銀と攻方が自由に57銀をどかすことができるので、2枚ともが質駒化されている。ここが工夫であり、先行作から発展しているところである。

この作品を見た久保さんが、さらに別の発展をさせた。

2017年10月 久保紀貴 「パラレル」

88馬、77香、同馬、66香、47香、同馬、66馬、55香、
同馬、35玉、36香、同馬、45馬、同馬、47桂、44玉、
53銀不成、43玉、44香、同馬、52銀不成、同玉、51飛成、43玉、
35桂、同馬、45香、同馬、53龍、
まで29手で詰

馬屋原手筋で香合が連続で出るところは自作と同じだが、質駒は69馬1枚に戻っている。どういうことか。

連続合の途中で47香、同馬と動かすことで、1枚の質駒に2役もたせているのだ。質駒2枚相当なので4連続合にすることも理論上は可能そうにも思えるが、作者の検討によると馬と香では3連続が限界とのことであった。

3連続合に収めた代わりに簡潔な構図と手順でまとまっている。また、言うまでもないが質駒が生角から馬に変わったことで、質駒を取りに行く変化が同馬と取られる形になっているのも新たな発展である。